第13話:私の中の倫理観がそれはダメって叫んでる!



 しばらくぼんやりしていた愛那は、こちらへと近づいてくる仲が良さそうな老夫婦に気づくと、ベンチを譲るために立ち上がって歩き始める。

(これからどうしよう? ステータスの確認は出来ないし、次にどうするか考えてなかったな・・・・・・)

「お腹すいた・・・・・・」

 立ち止まってお腹をさする。

「あ~もう!」

 失敗した! と、頭を抱える。

(お城から食べ物持ってくればよかった!)

 透明人間状態の今の愛那なら、捕まることなく簡単に、その辺のお店からでも食べ物を盗むことが出来るだろう。 

 だが・・・・・・。

(で・・・・・・出来ない! 盗み! ダメ! 絶対! 私の中の倫理観がそれはダメって叫んでる! けど! ・・・・・・あの王様と王子のいるお城からなら、当然の慰謝料として何を盗んでも心は痛まない)

 王子のことを思い出した愛那の表情がひどく冷めたものになる。

「・・・・・・お城には戻らない。けど、空腹には勝てない」

 クルクルと愛那のお腹が可愛く鳴いた。

(この恰好もダメよね)

 今は透明人間のままだからいいが、こちらの世界ではないデザインの制服を着ていては、やはり目立ってしまうだろう。

 食べ物だけじゃなく、着替えも必要だ。

 夜になったら寝る場所も確保しなくてはいけない。

 となると、のんびりなんかしてられない。

 この世界のことを何にもわかっていないんだから、やらなきゃいけないことが見つかった。

「まずは、情報収集をしなくては!」

 気合いの入った愛那の声に、びっくりした周囲の人達が、声の主を見つけようとキョロキョロと探している。

 それに気づくことなく、愛那はお店が建ち並ぶ方向へと向かっていった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る