第10話:救世主様も御立腹です



(え~と。なるほどなるほど。私の運命の恋人には愛する婚約者様がいらっしゃるそうです。・・・・・・て、なにそれ? さっきちょっとだけでもときめいた自分が恥ずかしい!!)

 愛那が密かに悔しがっていると、王太子の声が神殿に響いた。

「この国一番の【強き者】確かにそれは私であろう!」

(・・・・・・よくわからないんだけど、そうなの?)

「だが! 何だ! そのふざけた【運命の恋人】というのは! 冗談じゃない! 私にはルーシェが、愛する婚約者がいるのだぞ!? 婚約破棄など、絶対にしないからな!」

(冗談じゃないのはこっちじゃないの? 何で私、あの王子に振られた感じになってるのよ!)

 この時点で愛那はイラッとし始めていた。

(大体何で放置? 私、異世界召喚とやらをされて、も、も、声かけられていないんですけど?)

「神託でございます! 神のお言葉にございます。レディル様、どうか召喚されし御方と共に力を合わせ、この国をお救い下さい!!」

 ここにいる全員が王太子の所へと集まる。

 さらに蚊帳の外にされているという状況が、愛那のイライラゲージを溜めていく。

「レディル殿下! どうか国をお救い下さい!」

「お願いでございます! どうか!」

「王太子殿下!」

「くっ・・・・・・」

 神官達の懇願に負けず、王太子が「嫌だ!」と言い放つ。

「王太子である私自らが魔物討伐にだと!? ふざけるのも大概にしろ! 第一! 見てみろ! あんな女、顔も容姿も何もかも! 私の婚約者であるルーシェの足下にも及ばないではないか! あれが将来の王妃だと!? あり得ないだろう! 絶対に認めない! 私は絶対にルーシェと結婚するんだ! 神に逆らってもこれだけは絶対に譲らないからな!」


 それを聞いた愛那の顔が〝無〟になった。


「王太子殿下! 何ということを!? 神のご意向! ご神託でございますぞ!」

「何と罰当たりな!」

「レディル様! 我が儘も大概になさいませ!」

「黙れ! 絶対に嫌だ!」

「レディル、ご神託だ。諦めろ」

「父上!? 絶対に嫌です!」


 異世界召喚された救世主様の顔は、その表情だけでなく、先程まで苛立っていた感情さえも、冷たく凍り始めていた。



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