第9話:あなたが私の王子様?
愛那は周囲の戸惑いと失意を含んだざわめきに気づいていたが、その意味を考える余裕はなかった。ただ、目だけをキョロキョロと忙しく働かせ、状況を把握しようとしていた。
(神殿・・・・・・神官? 日本人じゃない。違う髪色多すぎ! 染めてるの? 鮮やかな青と白のローブ。一人だけデザインが違う。偉い感じの人。奥の高い所に王様と王子様っぽい恰好の人もいる。・・・・・・ちょっと待って。なんかこの感じ知ってる。・・・・・・ほら、足下のこれ、魔法陣でしょ? 魔法陣の真ん中にいるよね、私!)
そう、愛那は知っていた。少ない知識であったが、アニメと漫画で同じような状況に陥った主人公を思い出していた。
(これは、あれでしょ? 勇者、とか、聖女、とかのあれよね? ・・・・・・ふふっ。おかしいな? こんなリアルな夢、今までみたことないのに・・・・・・)
「陛下。無事、異世界召喚は成功にございます」
その声に、現実逃避しかけていた愛那はハッと口を開けた。
(それだ! 異世界召喚!)
「成功? 我らが求めていた救世主とは、ずいぶんとかけ離れた者を召喚してしまったようだが?」
「私も最初は驚きましたが、ご安心ください。神託が下りました」
「ほぉ?」
「神はこうおっしゃいました。今回召喚された少女は、この国で一番【強き者】の【運命の恋人】である。二人の力を合わせれば、魔物を討伐することなど、容易いであろうと」
「・・・・・・何と?」
「何だと?」
(何て?)
「この国で一番【強き者】の【運命の恋人】? そなた、召喚に失敗したからと誤魔化そうとしているのではないか?」
(・・・・・・金髪の、ザ・王子みたいな人、機嫌悪そうね)
「いいえ! レディル王太子殿下。神官長たる私が、神のお言葉を偽り誤魔化そうなどと、本気でお疑いか?」
(王太子殿下ってことはやっぱり王子様か。そして神官長ね)
「いや、すまぬ。だがしかし・・・・・・」
「異世界召喚は、この国の救世主を招くための魔術。初代国王の時と違い、今回は、この国一番の【強き者】と、あの召喚された少女が【運命の恋人】であり、その二人がこの国の救世主となるわけだな」
「おお・・・・・・ッ」
(救世主? 運命の恋人? 何それ? 私ってば、少女漫画の世界に飛び込んじゃったの?)
愛那が乾いた笑いをこっそり漏らしていると、こちらを見ていた王太子と目が合った。
(背が高くてスタイルもいい。ちょっと目つき悪いけど、整った顔立ちの、イケメン王子ね)
「ということは、だ。レディル」
国王の声に皆の視線が集まる。
「この国で一番の【強き者】とは、そなたのことであろう!」
歓声が上がる。
「では! レディル王太子殿下が救世主のお一人!」
「お二人は【運命の恋人】同士であらせられるのですね!」
「神の認めし【運命の恋人】とは! なんと素晴らしい!」
(神の認めし運命の恋人!?・・・・・・へぇ。じゃあ、あなたが私の王子様? ・・・・・・って、何この展開!? いやいやいやいや! ・・・・・・待って! 恥ずかしい! ちょっと待って!)
「ま、待て! お前達!! お待ちください父上! お忘れですか!? 私には・・・・・・私には、愛する婚約者がいるんですよ!?」
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