210.-Case結城-底なし沼
「あーちゃん……つぅかまえた。ふふ……」
結城の手が僕の手を捕らえた。
ぬるりと濡れた冷たい指。
黒い手に黒い液体。
血かそれ以外の体液か、その他の何かか。
手?
三郎は結城の両手を掴んでいる。
ではこの手はいったい?
3本目の腕がにょきにょき生えているはずがない。
僕の目にも結城の腕は2本だった。
だが何故か3本目の腕がある。
認知と現実の事象に理解不能な誤差が生じていた。
直後、あの紅い筋が結城の指を伝って僕の手に這い伸びてきた。
指先からあっという間に体に伝導してきた。
紅筋はぷよぷよしていて、本当に血管を具象化したような感触だった。
電撃が僕の内側を駆け抜けた。
痛みだった。
痺れるほどの残酷なまでに強力無比な激痛。
脳が知覚すると同時に全身の末梢神経系を焼き殺した。
痛みは紅筋を伝ってきていた。
形容しがたい痛みだった。
火傷や感電の痛みではない。
もっと鋭い。
例えるなら全身の細胞をハサミで切り刻まれるような痛覚。
切り傷の体感がもっとも近しい。
心臓が跳ねる。
あまりの痛みに視界が一瞬ホワイトアウトした。
ショック死するかと思った。
何故しないのかと疑問になるほどだ。
過去14年間生きてきた痛みを全て合わせてもこれには足りない。
悲鳴すら上げられなかった。
紅筋は僕の全身を侵していた。
それどころか足を伝いその地面にも広がっていく。
瞬く間だった。
視界に続く限りの地面を紅筋は縦横無尽に広がっていった。
土地面が、曼珠沙華が、川が、小石が。
脈動する血管がへばりついた。
なにもかもがまるで心臓だった。
「うわっ……」
足元の地盤が消滅した。
土であるはずの地面から踏みしめがなくなる。
沼だった。
黒い黒いタールのような沼。
あの赤黒の異形世界にもあった物と同様だった。
しかし今度は深い。
足底に踏みしめる場がない。
バタバタ探ってみても土台がどこにもなかった。
底なし沼だった。
身体が沈む。
みるみる目線が下がっていく。
もがくほどより速く、足から腰、腰から肩、頭まで水没するのに時間はかからない。
ズブズブ奈落の底へ堕ちていく。
僕は地面に溺れた。
深く……深く沈んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます