193.-Case三郎-疲労
「うっ……」
足首を引かれる感触。
足が木の根か何かに引っ掛かった。
バランスを崩し地面にべしゃりと前から倒れ込んだ。
幸い石肌ではなく土の地面だった。
「あーちゃん! 立って! すぐ立って!」
結城が引き返し、すぐに僕の腕を引いて無理やり立ち上がらせる。
痛かったが文句など言えない。
三郎の狂拳に襲われるくらいならコケた痛みなど、後で幾らでも痛がればいい。
だが疲労度は誤魔化しようがない。
息が上がり足がガクガク笑ってしまっている。
今の転倒が足に蓄積したダメージにトドメの一撃を加えたらしい。
「……結城、僕はもうダメだ。置いて先に逃げてくれ」
「……本気でそんなこと言ってるの?」
「ごめん、ウソ。置いてかないで」
軽口を叩いてもフラフラだった。
太ももあたりがぬるっと濡れている。
血なのか泥水なのか液体だった。
鈍痛で麻痺して今ひとつわからないが、どこか切ってしまったかもしれない。
「…………」
結城が何か考えている。
ただでさえ足でまといの僕が鈍化しただのお荷物になってしまったので、処分を検討しているのではあるまいか。
出来得るなら、別の逃げる算段か一発逆転の光明であってほしい。
――オオァアアァアアアアアアア!!!
咆哮と同時に、背後で杉が倒されていた。
鬼の巨体が視界の届くところまで迫っていた。
木々を粉砕しながら、こちらへ真っ直ぐに向かってくる。
もう数メートルとなかった。
「……ヤバい、追いつかれた。やってちょうだい」
結城が携帯電話を取り出してどこかへダイヤルした。
小声で早口で連絡する。
電話口の向こうからはノイズに塗れた返答だけが返ってきた。
よく聞き取れなかったが、しわがれた老人のような声質だった気がする。
――オオオォオオオオオオオ!!!!
直後、突進してきていた鬼が急激にその足を緩めた。
およそ半分ほどの速度になった。
上体がやや仰け反り、見えない何かに阻まれたようだった。
鬼の体の各所で、小さな火花が弾けた。
ガン、と鉄が鉄にぶつかるような音がしただけだった。
だが何かが当たり、彼の初動および予備動作を殺していることは理解できた。
――アァアアアアアアアア!!!!
鬼が何か動作を起こそうとすると、体のどこかで火花が散る。
決して鬼に致命の傷を負わせないが、動きの”機”をズラし、前進をことごとく阻んでいた。
「あーちゃん、こっち!」
結城に手を引かれて、草藪の茂った方向へ導かれる。
僕には何がなんだかサッパリだったが、彼が何らかの手段を用いて足止めしたことは明白だった。
鬼が苦しみ、暴れて振り回した手足が周囲の樹木を薙ぎ払う。
木々が木片をまき散らしながら倒壊した。
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