178.迷信
「でも意外だな、神様がいるって信じてるんだね」
「信じてないよ」
「……さっき神様の形がどうとか言ったじゃないか」
「んー……神様に近しい何かは居ると思う。でもそれっていわゆる神様じゃなくて、もっと人の中に浸透したものじゃないかなって」
「人の中に浸透?」
「うん、そうだなぁ……例えば好きって想いとか、美味しい物を食べた時の喜びとか、お風呂上がりの気も良さとか」
彼が言っているのは、もっと哲学的な意味の神なのだろうか。
例えば社会常識や良識、あるいはマナーなど規範。
人々がほぼ表層意識に上らせずとも当たり前に持っている知識。
言ってしまえば共同幻想。
神という表現が大げさならば、暗い場所にお化けがいる、悪いことをしたらバチが当たる。
何の根拠もなく、宗教ですらない迷信。
だがそれらは知らないうちに人の基底意識に宿っている。
具体的な形は持たないものの、ある意味では信仰を持つ神である。
そういうことか?
しかし全にして一、一にして全。
あらゆる存在であると主張するキリスト・ユダヤの主も概要では同じようなものだ。
決して新しいとか斬新な発想である訳ではない。
「難しくて、僕にはよくわからないな」
「へへ、いーよ。さーやもよくわからないもの。一緒だね」
なんじゃそりゃ、とは口に出さない。
今に始まったことではないのだ、今に始まったことでは。
「そうだ、甘納豆食べるかい? お揚げじゃないけど、甘い物好きなんだろ?」
小袋2つを手に載せて差し出す。
すると三郎は全身をビクリと震わせて1歩たじろいだ。
眉毛を八の字に曲げて、頬肉を左右不均等に醜くつらせて強ばらせる。
あからさまに嫌悪感を浮かばせた。
「……さーや、それいらないなぁ」
「嫌いだった?」
彼は近づくのも嫌という様子だった。
ましてや食べるなどとんでもないと。
「嫌いっていうか……うん、まぁ……」
僕も結城も当たり前に食べるけれど、若者にはややジジくさい。
最近は和菓子自体を苦手とする子もいる。
ゲームセンターでの怪しげな煙も平気で食っていた三郎にも苦手とする物があったのか。
もっとも、苦手というだけでそんな汚物を見るような目をしなくても良いだろうに。
やがて結城が戻ってくる。
僕たちは山道へと入っていった。
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