177.神様のカタチ
唐突に切り出すものだから、どんな捻った答えが返ってくるのかと思えば、検討が外れた。
何の為の問答なんだ、これは。
三郎が続ける。
「神様ってさ、きっと人とすっごく似た形をしているよ。外見だけじゃなくて中身も。たぶん人格の髄までね。だって、もし神様が人間を作ったなら親しみのある形にするはずだもん」
そう言えば、神の肖像画は概ね人間の痕跡を残している。
頭が動物だろうと腕がいっぱい生えていようと、全体像は人間の形状に近い。
創造主という超越の存在でありながら、あまりに生物とかけ離れた形をしていないのだ。
一説では神が自身を模して人間を作ったからだという理由付けもされている。
「……なんでそう思うんだい?」
遠い目をして微笑む三郎。
その眼差しの先は想いを馳せる広大な宇宙ではなく、もっと深い底へ向けられている。
しかしそれは地獄などという安直なものでもない。
深い場所を通して俗世の浅瀬を見ている。
「簡単だよ。自分以外の生き物がほしいってことは、友達がほしいってことだもん。たぶん、神様は人間を作って、いつか自分の隣りに来てくれることを望んでいるんじゃないかなぁ。さーやが思うに」
一理ある、のか。
神話でも宗教でも神が人間を創造した理由は今ひとつ判然としない。
旧約聖書にすら、何故天地を創造したか書かれていない。
もし労働力や戦力がほしいのなら、わざわざ人間に自我を持たせなくていい。
無感情なロボットの方が都合が良いだろう。
もし神が自分の上にも下にも横にも、誰もいない孤独な世界にいるとしたら。
孤独感に心を痛めていたとしたら。
一番欲しいと思うのは、自分と同等の生き物……それこそ友達。
人間は科学という知識を得て、その技術は今や地球外に届いている。
ゲノム解析に共するクローン技術などは生命創造に近しく、神の領域に踏み込んでいると言っても過言ではない。
もし科学が際限なく進歩していくとしたら、いつか幾つもの次元上昇を突破し、神の世界に入ってもおかしくない。
その時、ようやく神は数億年かそれ以上越しに悲願を達成し自分と同等の友を得る、というのか。
……もちろん、神話を前提とした話だ。
ダーウィン進化論だってある。
人類創造の根源が友達作りという結論には証拠が一切ない。
それに、その誇大な妄想がどうして三郎と神の不仲に繋がるのか。
三郎は少し寂しそうに苦笑した。
「さーやの人間質は歪みすぎちゃったんだよね。人の不純物が混ざりすぎちゃったんだ。変な形をしたお友達なんて、誰も欲しくないもんね」
人間質?
むしろ三郎は外見こそ正常だ。
彼にまつわる噂の背景や、内在する膂力の方がよっぽど人間から離れているではないか。
「別に、さーやの見た目は何も変じゃないと、思うけど……」
「そう言ってもらえると嬉しいな。さーやがあーくんの好きな形しているって。この姿であるってかいがあるよ」
三郎の不思議ちゃんは今に始まったことではない。
何が神様の形だ、友達だ。
全ては妄想の一言で蹴散らしてしまえる妄言だ。
そう、ちょっとみくじ紙から文字が溢れる超常現象を見せたとしてもだ。
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