153.残り火
「結城、さーや……」
どちらも堂々とした佇まいで、自分に責任の追及は必要ないと誇示している。
だが先ほどから一部始終はしっかり見ていた。
彼自身もそんな粗雑な言い逃れで誤魔化せるとは思っていないだろうが、僕が深く責めることはないとタカをくくっているのかもしれない。
事実その通りだ。
続ける言葉を僕は持っていなかった。
何を言ったところで、きっと遠回しになってしまう。
明確にしなければ、いくらでものらりくらりと自分に都合よく曲解するだけの面の厚さが彼らにはある。
本心を伝えるには、飾った言葉ではきっと無意味だ。
認識のフィルターを貫徹するだけの重さが必要だ。
皮肉がお世辞に変換されてしまっては駄目なのだ。
誤魔化しで塗り固めてしまうと、返ってくるのも真意ではなくなってしまう。
「…………」
僕が沈黙していると、結城と三郎は居心地悪そうに視線を逸らした。
気まずそうに顔をしかめる。
先に口を開いたのは結城だった。
「ごめんね、あーちゃん。ボクはそんなつもりなかったんだけど、こいつが突っかかってきてさ……」
「あぁ? よくもぬけぬけと図々しいことが言えたもんだな」
三郎が険のある空気を放出する。横目で結城を睨みつける。
彼の見識では非は結城にあるらしい。
状況だけ鑑みれば、結城の方が三郎を誘い出したのかもしれないが、いまさらどっちでも良かった。
「……元はと言えばあんたのせいじゃない」
三郎のガン飛ばしに結城が応戦する。
鎮火などしていない。
火勢の上に布を敷いているだけで、軒下では常に火種が燻っている。油をかければ燃え上ってしまう。
寄れば触れば、2人の間は険悪さが再出している。
僕が少しおし黙った。
それだけで彼らの喧嘩の原因になり得る。
僕の責任……なのか?
「ば……場所を変えよう。ほら、2人共まだりんご飴とかも食べてないだろ? 色々買っておいたんだよ。喧嘩なんかせずにお祭りを楽しもう」
「……うん」
「あーくんが、そういうなら……」
どちらも不服そうだ。
振り上げた拳の降ろし先が分からない。
内部で火は燃え続けているのに、熱を吐き出す場所や燃やす酸素がない。
僕という安全棒だけでは、炉心融解を止められても冷却まではしようがなかった。
いまだ不満は燃焼し続けている。
先導し、やぐら広場の隅に移動した。
通行人の流れから外れ、まばらに休憩する人が点在している。
ここなら立ち止まったとしても周囲をとおせんぼする危惧はない。
「そうだ、これ……」
あらかじめ購入していた露店の食べ物を2人に渡す。
たこ焼きお好み焼きに瓶ラムネ。
粉物は既に冷たく冷めきってしまっているが、そんなことは些細である。
今はただ、彼らが燃え広がるのを防ぐだけだ。
未使用のケミカルライトも取り出す。
ポリエチレンの棒を両手に持って圧し折る。
非常用ライト向けではない為、太くも硬さもあまりなく、強く力を加えなくても折り曲げられた。
パキリと感触が伝わる。内部の物質が化学反応を起こし、淡く発光し始めた。
光が中心部に寄っているので、左右上下に振り回して全体に行き渡らせる。
スティック全体に光が満ちたところで、微調整しながら輪っか状に形成する。
このケミカルライトは両先端部に連結用の留め具はない。
輪っかにして繋ぎの部分は隙間が出来てしまうが、手から擦り抜け落ちるほどでもない。
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