107.二分の一

「結城、さーや、これ2つあるよ。1人につき、1つずつでどうかな?」


 2人は僕の両手に摘まれたそれぞれを、しげしげと眺める。

 複雑そうな表情をした。

 そりゃそうだ。

 1対1セットの物をはんぶんこしようって話なのだから。


 それに彼らはお互いを嫌い合っている。

 これを付けたらお揃いになってしまう。許容できるのか。


「……それで妥協しましょ。あんたもそれでいいよね?」


 結城が片方、蛇の頭が上向きになっている方を取る。

 だが横から三郎が彼の手に掴みかかる。


「やだ、さーやそっちがいい」


「別にどっちだって同じでしょ」


「やだ」


「…………」


 結城が沈黙する。

 どちらでも良いというのは本心なのだろう。

 ただ三郎のダダに不快を感じたに違いない。

 すぐに引こうとしなかった。


 しかしやがて結城は持っていたイヤリングを手離す。

 三郎がさっとむしりとった。


「わーい! あーくんからのプレゼント嬉しいよぉ。あーくんだと思って、大事にする」


 彼は両手でギュッと抱きしめると、巾着に大事そうにしまう。

 キーホルダーか何かだと思っただろうか。

 イヤリングだと気づいたかは怪しい。

 あげた物だから本人がどうしようと勝手であるが。


 結城は残った、頭が下向きの蛇を取る。


「ま、あーちゃんからのプレゼントってことには変わらないものね。二等分だけどさ」


「約束してたのにごめん」


 彼はイヤリングを顔の横の高さに持ち上げ、チャリチャリ鳴らす。

 そして犬歯を晒し、意地悪そうな笑みを浮かべた。


「込められた気持ちも二分の一?」


「意地の悪いことを言わないでくれよ」


「ふふ……冗談。宝物にするね」


 そう言って彼も、イヤリングを自分のバッグへ大切そうに仕舞う。


「……付けないの?」


「あはは、浴衣に合わせたら……ちょっと派手すぎるんじゃない?」


 確かに合わないだろうな。

 結城は遠回しな言い方をしたが、あのデザインに合うファッションを考えるのは、少し骨が折れるだろう。

 なにしろパンクすぎる。

 もちろん今、無理に付けて欲しいとも思わない。思えない。申し訳ない。僕のせいではないが。




「あーくん、次こっち行ってみようよ。何かやってるって」


 三郎が2階に続く階段前で手招きをしている。

 彼も先のゲームで不調に見舞われたというのに、元気なことだ。


 彼の立っている後ろに、立て看板があるようだ。

 何と書いてあるのか分からない。

 三郎がその前に立ち塞がって遮断しているからだ。


 トランプタワーのように板が支え合う、四脚のスタンド看板。

 片面が学校の黒板と同じ研ぎ出しになっている。表面が合成樹脂などの材料で作られている、いわゆるチョークボードやブラックボードだ。

 爪で引っ掻いたら、さぞかし耳障りな高音が発せられるだろう。


 看板にはこう書かれていた。

 「本日、2階にて魚釣りイベント開催中」と。花まるで囲われている。

 三色のチョークで。

 ここにも店員の遊び心があった。

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