67.駆け抜ける
「うわっ……!」
慌てて払いのける。
化物は椅子の下まで弾き飛んでいく。
殆ど重さの感じない手応えだった。
「……こっちもかよ」
血の気が引く。
小さな化物はそこかしこにいたからだ。
それも形はどれも統一感がない。
眼球に生えた手で移動する化物、耳に人の足が生えた化物、鼻の両側に耳が生え翼のようにして飛ぶ化物……。
共通点は、どれも人間の体のパーツで構成されているというくらい。
進化論に唾を吐きかけるが如きおぞましい生き物ばかりだった。
くそっ、っと心の中で吐き捨てる。
化物に捕まらないよう、足早にさらに前方の車両へと進む。
前の車両はさらに荒れ果てている。
座席の殆どは半壊しているほどだ。
汚れと化物の量だけが、前の車両より優れている点。
僕の足は早まる。
飛びかかってくる幾つもの化物を払い落とし、前の車両へ前の車両へと進む。
やはりだった。
車両は進めば進むほど、風化は酷くなり化物の量は増えた。
おそらく進むほどに環境は悪化する。
だが立ち止まることもできなかった。
止まれば、いずれ肉塊の群れに追いつかれる。
ジリ貧で化物の餌になる未来を待つくらいなら、足を動かして、逃げて逃げて、逃げ続けた方がマシだ。
そして5両も抜けると、もはや走り続けるしかなかった。
人間の体のパーツの化物は、止まればあっという間に群がられるほど増えていた。
進むほどに足場さえ悪くなったとしても。
踏みつけると、軋み、そこが抜けそうなくらい錆びているのだ。
「わぁあああああああああああ!!!」
頭を抱えて、ひた走る。
幾らか肉や皮膚を齧り取られて、出血しても構わず走る。
鋭い痛みが全身を苛む。
この痛覚……本当にここは夢の中なのだろうか。
だが、化物だらけの光景の中、視界の端で何か黒い物が高速で動き回っていた。
小柄な、子供のような形の影。
そいつが腕のような何かを振るうと、化物の一角が弾け飛ぶ。
それが何なのか分からない。
視認する余裕もなかった。
ただただ、恐怖と痛みに耐えながら走った。
電車はどこの駅にも止まらない。
幾ら走行しても、停車どころか速度を落とすことさえしなかった。
もしかしたら、暴走しているのかもしれない。
ふと、いったい何両目だったろうか。
その車両に入って、空気が変わった。
そこの内装は、いつ分解してもおかしくないほどボロボロだった。
床も壁も、触れば表面が崩れる風化の度合いである。
しかし、化物の姿はない。
激しい風の流れが頬に当たる。
かろうじて読めた壁の車両番号。
1号車。
ここが先頭車両だ。
先頭車両……のはずだ。
車両の、先端がなかった。
壁も床も何もない。
運転席が丸ごとない。
ゴォォォォォォォォォ……。
激しい風切り音。
磨り減った車輪の悲鳴。
剥き出しの状態だった。
外の景色が丸見えだ。
風の流れは、直接外から吹き込んでいる物だったのだ。
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