57.逆光
「……ーちゃん?」
誰かに体を揺すられて、目が覚める。
瞼を開くと、オレンジ色の光が網膜を焼いた。
「……結城?」
西日の逆光を背にして、結城が前かがみで僕を覗き込んでいる。
その手には商品で内側から膨らんだ買い物袋。
彼の背後は自宅の庭であるし、僕が座っている場所は玄関である。
どれくらい寝ていたのだろう。
陽が落ち始め、周囲はオレンジ色に染まっている。
「何やってんの、玄関で。昼寝? それとも日光浴?」
やや混濁しているが、意識を失う直前の記憶を引き摺りだす。
「えーと……あ、そうだ。鍵……がなくて、入れなくて……」
結城が甲高く、はぁ~~~?と呆れ声を上げる。
「え、じゃあ、あの後別れてから日中ずっとここで眠りこけてたの! 熱中症を注意したじゃない! 下手したら死んじゃうよ! 子供じゃないんだから、お店や図書館で時間潰すとかボクに連絡寄越すとか!」
「いや……何か、急に酷い眠気が襲ってきて……」
彼はバツが悪そうに後ろ頭を掻く。
「……そっか、ちょっと体調悪そうだったもんね。1人で帰すべきじゃなかったなぁ」
今は気温がだいぶ下がっているが、あの猛暑の中、ずっと自分は眠っていたらしい。
焼き肉のようにコンクリートの鉄板で炙られていたのだ。レアで。
比喩でもなく、死んでいた可能性すらある。
頭がスッキリするに従って、体中の神経伝達が不調を訴えかけてくる。
全身の倦怠感、頭痛、眩暈、吐き気、寒気。
確実に脱水症状も引き起こしている。
三郎と再会して体調を崩し、帰宅中に快復してきたと思ったらまた具合を悪くする。
我ながら慌ただしい。
「あーちゃん、立てる?」
結城が差し出してきた手を取り、立ち上がろうとする。
血中酸素欠乏で視界が一瞬、青と黒に明滅した。
足に力が入らず、膝をついてしまう。
「あっ……ヤバ……」
「おっとと……足元おぼつかないじゃん。仕方ないなぁ」
結城が僕の体を受け止めた。
反転し、脇に頭を滑り込ませ、肩で体重を支えてくれる。
見た目に反し彼の足腰は強靭で、男女ほどにある身長差と体重差をものともせずに僕の体重半分を荷担してくれた。
「鍵……鍵っと……」
僕を担ぎ、買い物袋で自由が効き難い手を器用に動かし、ポケットから取り出した鍵で玄関を開錠した。
せめて玄関扉くらい自分で開けようと試み、手を伸ばしてみるも、眼球の水晶体が左右で焦点がズレて二重にブレたので諦める。
文字通り家に担ぎ込まれた。
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