55.横恋慕
帰路を歩いているうちに、少し気分がマシになる。
混乱していた大脳皮質が、物事の順番を整えた。
その一方で、体は歩く度に疲弊していく。
まず、何故今になって三郎は町に舞い戻ってきたのか。
これは答えが出ず、早い段階で思考を放棄する。
彼が懐郷病(ホームシック)を患って帰郷したとは考えられない。
柄ではない。
郷土愛があるとも思えない。
本人はバーバ……おそらくは祖母宅、への帰省だと言った。
ますますあり得ない可能性に感じた。
『あーくんを探していた』
あの言葉ばかりが気にかかる。
どういう意味なのだろう……。
僕と彼との間柄は、薄い。
地元に住んでいる、というだけのよしみから、幼稚舎や小学校で極稀に顔を合わせた程度でしかない。
それこそ、彼が鬼三郎になってからの交友は皆無。
親交の理由も怨まれるスジも、何もない。
何故、僕なんだ……。
そして何より僕を悩ませた、あの格好。
女装。
知る限り、彼はイカれた暴力癖だが女物の服を着る趣味はなかったはず。
少なくともこの町にいる間のみなりは、ごく普通の少年だった。
直接の面識がなくなってからも、そういう噂も聞かない。
もちろん同性愛者という話も。
町を去った後に、なんらかのきっかけであんな姿になってしまったのか。
あるいは元々持っていた凛性が後に開花したのか。
先ほど会った彼を思い起こす。
確かに、顔立ちに三郎の面影がある。
もっとも、顔の造作がそうであるだけで、凶悪だった面構えとは全然違う。
こちらも考えたところで答えは出ない。
そんな思索の迷路を3巡した頃、自宅に着いた。
玄関扉を開けようとする。
ガチャガチャガチャ。
「……?」
気付く。
外出時に結城が施錠していたことを。
ポケットを漁る。
そして気付く。
鍵は結城が持っていて、自分はほぼ手ぶらだったことも。
バカではなかろうか、自分は。
それか、落ち着いたと錯覚し、今まだ錯乱しているのかも。
結城に連絡しようと携帯電話を取り出そうとして、急速に眠気とも疲労ともつかないダルさが襲ってきた。
体が鉛のように重く、思考にブレーキがかけられる。
血液の流れが停滞し、筋肉の伝達神経が切れていく、錯覚。
玄関扉を背に、ズルズル崩れ落ち、その場に座り込んでしまう。
抗いがたく閉じていく瞼と共に、意識が消失していく。
携帯もダイヤルできぬままに。
セミの鳴き声が遠くなっていく……。
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