ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~

33.残暑

恋をした時、3つの敵があなたの前に立ちはだかる

1つ目は自分の気持ち

2つ目は相手の気持ち

そして3つ目は、恋敵である


-ある投稿コラムより抜粋-


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 少しだけ風に涼しさが混ざり始めた、残暑の8月下旬。

 あと幾らもしないうちに、夏季長期休暇も終わるだろう。

 そうしたら始まるのは、夏休み気分を引き摺ったままの憂鬱な2学期だ。


 あまりオツムの出来に自信のない僕は、新学期すぐに行われる実力テストを想うと、軽い頭痛を覚えそうになる。

 実力テスト対策への自主勉の進捗は芳しくない。


 夏休み中に何度か学校へ赴き受けた、集中講習の効果もいまひとつ。

 あからさまな赤点を取ることもないだろうが、自己の努力や地頭への落胆は禁じ得ない結果となりそうだ。


 母校である仮心市立第三中学校は学力を重んじる、やや新進気鋭の進学校。

 難関のエリート中学校ほどでないにせよ、在校生はテストの得点で目に見えない侮蔑や冷笑を送り合うような、妙にピリピリとした空気が漂っている。


 夏季休暇前に与えられた義務課題だけ、滞りなく消化できているのがせめてもの救いか。

 それも幼馴染である結城に教授されながらなので、決して自分1人の力量と自制心によるものではない。

 学力まで彼頼りになるのは少し不味いかもしれない。


 そして、ぼんやり「不味いなぁ」などと薄っぺらい危機感を持ちつつも、残り少ない夏季休暇の暮らし方をあらためようともしなかった。



 室温27度。

 冷房で快適な日中の自室で、まるでやる気のない動物園のパンダのようにベッドでゴロゴロと寝て過ごしている。


 ピロリーン♪

 手元の携帯ゲーム機が、聞いているだけで鼓膜に悪そうな電子音をスピーカーから漏らす。

 一世代前の多機能ゲーム機。


 メディアにマルチに対応するという振れ込みで、映像再生・動画や静止画のカメラ・他機種リンクオンライン・データの保存、加工・ソーシャルネットワーク交流・インターネット通販などなど。


 ゲーム以外の様々な機能を搭載した高性能機として期待されていたが、時世の悪さと高額薄利が災いした。

 あっさりとモバイルオペレーティングを積んだ携帯電話に、その立ち位置を譲ってしまっている。


 しかしその高性能さやニッチなソフトラインナップなどで、一部に熱狂的なファンもいる。

 僕もその1人だった。

 専らアーカイブスでレトロゲームに興じている。


 指で操作する物理キーの反応に合わせ、ゲーム画面の中で首のないぬいるぐみが身の丈もありそうな中世剣をブンブン振り回す。

 迫りくる敵をざっくばらんに惨殺している。


 『クビナシくんのワクワク大冒険』というタイトルの、僕がまだ産まれてもない頃に発売された大昔のアクションロールプレイング。

 ろくにインターネットに情報が載らないようなマイナーなソフト。


 首のないツギハギだらけのぬいぐるみが主人公だったり、登場する敵キャラクターが手や目や口だけのモンスターだったり。

 見た目は奇妙だったが、それ以外の内容はよくあるアクションゲームと変わり映えしない。


 敷いて見た目以外の特徴を挙げるなら、発売年に比べてやたらと高精度なグラフィックスで、不気味なくらいゴア表現に力を入れていることくらい。

 操作性やシステム面は凡百だ。


 ストーリーも敵の親玉を倒してお姫様を救い出すという、グロテスクな絵面からあまりに乖離した定石な話だ。

 善と悪の対比。

 どこかのヒットメーカーのシナリオを、いい加減にぶち込んだのではと思わせる内容である。



 僕は溜息をつく。

 現実の世界も、このように善悪がハッキリと区別されていればどんなに楽なことか。

 であれば、こんなにも悩まない。

 

 夏季休暇開けの実力テストやゲームのボス攻略、それらよりずっと頭から離れない悩みが、いつまでも脳味噌の端っこに居座り続けている。


 腕に疲れを感じ、ゲーム機をベッドの上に放り出す。

 ただでさえ初期型で購入から5年も経っているそれは、投げた衝撃だけで勝手に電源が落ちるほどに劣化している。



 あの日から、49日が経過していた。

 結城と1日だけ恋人になって別れてから。


 まるで殺し合いのように、想いを確かめ合ったあの夜の後、僕たちは帰宅し夕飯を食べた。


 翌日も、結城は何食わぬ顔で登校の迎えにきていたし、学校でも自宅でもいつも通りに会話し接していた。

 しかしほんの僅かなわだかまりもあった。

 どこかしらぎこちなさが残った。


 その後しばらくして、終業式を迎えた。

 それまで毎日来ていた結城の自宅に来る頻度が、日を跨ぐようになった。


 去年のように長期休暇を利用して2人で旅行に行くこともなく、クラスメイト達を含めて海やテーマパークに何度か遊びに行った程度。


 何気ない風を装っていても、彼なりに遠慮しているのだろうか。


 妙にやりきれないモヤモヤが胸の内に残る。

 何をしていても彼が頭をよぎり、集中力を少し欠いていた。



 腹の虫がぐうと鳴る。

 悩んでいても空腹は感じる。

 階下に下りてアイスキャンディでも食べて昼を誤魔化そうか。


 などと考えていると、部屋のドアが開けられる。

 ガチャリと。


「あーちゃん、やっほー」


 結城がドアから顔だけ覗かせた。

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