第9話 クオン・ライトリューザー



 その後は、国の中をぶらぶら歩いていた。

 情報があんまり調べられなかったから、どこに行けばいいのか分からないし、調査って依頼もざっくりした内容だったからな。


『目を引く建物や、広まっている噂、この国と極端に違う部分を見つけたら、情報にまとめてほしい』


 って感じだったし。


 だから、適当に街を歩きながら情報収集しようと思ったのに。

 何でこういう時にかぎって面倒ごとがやってくるんだろうな。


 付近の人が騒がしくなった。


「だれかー! 捕まえて! 強盗よ!」







「強盗犯の逮捕、ご協力感謝します」

「ああ、おう」


 町中で発生した事件にうっかり首を突っ込んだら、レストリアの兵士さんと知り合いになってしまった。


 生真面目な顔をして仕事をしているその女性は、クオン・ライトリューザー。

 レストリアでも名のある兵士らしい。


 一応、知り合いでもあるんだけど、相手は俺達の事、覚えてなさそうだな。

 無理もない。

 あったのは、けっこう前の事だし。


 カルドネ本部長と息が合いそうなくらい生真面目な性格は、変わっていないようだ。


 そのクオンが、こっちに聞いてくる。


「あっさり強盗をつかまえたらしいですが、何か護身術の類いでも?」


 こっちの素性を知よく疑ってるって感じではなかったけど。


 むやみに疑われたいわけじゃないから無難に答えておかないとな。


「え、ああ。まあな」


 それを聞いた彼女は、特に不信感をいだいたようではなさそうだった。


「自己鍛錬に励むのは良い事です。貴方達の様な市民がいれば、この国の将来は安泰でしょう」

「そ、そうかな」


 その言葉にほっとする。

 どうやら、怪しまれてはいないようだ。

 こんな世界だし、きっと珍しくないんだろう。


 俺たちのいる町でも、体を鍛えている人間くらい、大勢いるしな。


 さtr、ここから自然な流れで離れるには、どうしたらいいだろう。

 そう考えていたら、キャロが口を開いた。


「そんな事より、こんな小さな事でお手を煩わせるなんて心苦しいわ。仕事の邪魔になっちゃいけないから、私達はもう行きましょう」

「そ、そうだな」


 キャロのフォローに感謝しながら、そそくさとその場を離れていく。


「あ、少し待っていてください」

「?」


 クオンがハンカチを取り出して、こちらの額をぬぐった。


「土で汚れていましたよ」


 犯人ともみあった時、そういえば地面にダイブしたんだっけ。

 盗まれたものをいきなり放り投げるから、つい反射的に。


 皺ひとつない淡い菫色のハンカチに汚れがついてしまう。


「あ、ああ悪い。綺麗なハンカチなのに汚しちまったな」

「いいえ、こういう時のためのものですから」


 要件はそれだけのようだった。

 俺たちはふたたび歩き出す。


 クオンに素性を怪しまれているような雰囲気はなかった。

 が、あの場に長居していたくはなかったし。


 …………はぁ、びびった。まさか兵士が出てくるとは。


 心臓に悪い出来事だった。


「ふぅ、助かったよ。キャロ」

「もうちょっと自分で知恵回しなさいよね」

「それができたら苦労しねぇよ」


 予期せぬエンカウントで冷や汗をかいたが、なんとか切り抜けられたようだった。


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