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 探偵は足で稼ぐ。アンナというその学生は、迷い羊と同じ学年だった。カタリナに教えられた部屋を訪ねるが、不在だった。


「きっと幼少部ですよ。子供の面倒を見るのが好きで、よく天使様たちを手伝ってますから」


 隣部屋の少女は言った。わたしは感謝の言葉を述べ、幼少部へ向かった。


 探偵は足で稼ぐ。幼少部の玄関にはクリスマスツリーと馬小屋が飾られていた。教員室へ。手の空いている天使に、アンナの居場所を尋ねた。


「ああ、それなら体育館ですよ」


「何をしてるんです?」


「聖誕劇の練習中なんです」


 天使は言った。わたしは天使に感謝の言葉を述べ、体育館へ向かった。


 探偵は足で稼ぐ。幼少部の校舎から、渡り廊下でつながった小規模な体育館へ。中から、子供の声が聞こえてくる。ゆっくりと扉を開いた。体育館の中は照明が落してあった。視線が集まる。舞台には着飾った子供たち。学生と天使たちが見守っていた。舞台上のマリアと目が合う。わたしは微笑んだが、子供はわたしに注意をそがれ台詞を忘れてしまったらしかった。


「アンナなら、さっき破けた衣装の修繕中です。幼少部の部屋を借りると言ってましたが」


 奉仕の学生が不機嫌そうに言った。わたしは感謝の言葉を述べ、校舎に引き返した。


 探偵は足で稼ぐ。無駄足を踏んでも泣き言を言うべきではない。


 探偵は足で稼ぐ。体育館から再び校舎へ。一階から順に中を見て回り、二階の部屋でそれらしき少女たちを発見した。ドアをノックしかけたところで、二人が口論するのが聞こえてきた。


「ちょっと、クララ。衣装に余計なものくっつけないで」


「えー、アップリケは余計なものじゃないよ」


「クララの思いつきが余計なの。ほら、それ貸して」


「やだよ、外すんでしょ」


 不毛な議論になりそうだ。わたしはドアをノックして、少女たちの諍いを一時中断させることにした。


「はいはい。どちら様?」おかっぱ頭の少女が応対した。


「君がアンナさんかい?」


「わたしはクララ」そう言ってなぜか手を差し出してくる。わたしは一瞬だけ悩んでからそれを握った。


「アンナはあっちだよ」クララは部屋の奥を示した。髪の長い少女がアップリケを取り外しにかかっていた。


「あ、アンナずるい」


 クララが駆け寄る。わたしもその後に続き、二人が議論を蒸し返す前に訊いた。


「君がアンナさんだね」


「ええ」少女は目線を手元に落としたまま答えた。なぜか部屋の外で立ち聞きしていた時よりも声が小さく聞こえる。


「わたしは高等部三年のサマンサ。アグネスさんが失踪した件について調べている」


「サマンサ? もしかして噂の探偵さんじゃない?」クララが興奮した様子で言った。


「そうですか」アンナがこわばった口調で言った。


「彼女が消えたことについて何か心当たりはないかな」


 アンナが小声で何ごとかつぶやく。


「なんだって?」


「あいにくと」アンナは強調するように言った。「話すことは、ありません。何も。帰ってもらえますか」


 最後はふたたびトーンダウンしていったが、確固とした拒絶の意思を感じる口調だった。


 わたしは探偵だ。それがときに人の口を閉ざす。


「そんなことはないだろう。君たちは友達だったはずだ」


「いまも友達です」


「これは失敬」


「ごめんね、探偵さん。アンナってば人見知りなんだ」クララは言った。アップリケのことは諦めて、わたしに関心を移したようだった。「ねえ、アンナ。本当に何もないわけないでしょ」


「クララも知ってるでしょ。わたしはあの日、アグネスと一言も話してないの」アンナは言った。「そういうことですから、探偵さん」


「アンナってば、つっけんどんすぎるよ。探偵さんも困ってんじゃん」


「クララは黙ってて」


「でもさ、探偵さんはアグネスを探してくれようとしてるんだよ」


「だったらこんなところに来るのは見当違い。あの子のことだからきっと、森で迷子にでもなってるんでしょう。そのうち天使様が見つけられるわ」


「もちろん、そうなる可能性はある」わたしは言った。「だから、どうかな。これは雑談のようなものだと思って気軽に話してほしい。別に、失踪に直接つながるような話じゃなくていいんだ。君から見て、アグネスさんはどんな子だった?」


 沈黙。


「アンナ」クララが呆れたように言った。


「わかってる。考えてただけ」アンナは言った。「アグネスは……年の割に子供っぽい子でした」


「というと?」


「わたしはよく幼少部の子供たちの世話を見ているんです。でも、なかなか子供がなついてくれなくて」


「アンナは子供相手だと仕切りたがるからねえ」


 アンナは無視した。


「だけどあの子は違いました。いつも自然と子供たちが集まってくるんです。わたしと二人並んだらそれはもう一目瞭然。あの子自身が子供っぽいからでしょうね。子供とすぐ友達になれちゃうんです。子供と遊んでて膝をすりむいてしまったこともありました。そのときは子供たちが救急箱を取ってきてくれて、これじゃどっちが奉仕に来たんだかと思わされましたよ」


 アンナはわたしがいることを忘れたように話し続けた。その間も針を止めない。


「アグネスは子供っぽい子でしたが、敬虔な子羊でもありました。平日でもよく礼拝堂で顔を合わせました。お祈りのため、ということもありますが、あの子、あそこのマリア像が一番神々しく見えると言って、とりわけお気に入りだったんです。上着もかけずに出てきて凍えながら祈ってる時もあるんですよ」


「いったい彼女は何を祈っていたのだろう」


「あの子、聖母様のようになりたいんだそうです」


「はあ、聖母様に?」


「ええ」アンナはため息をついた。「自分の世話も満足に見られないというのにね。あの子を見てるとこっちがママのような気分になります」


「なるほど。君にとっては妹のような存在だったんだな」


 わたしは微笑んだ。アンナはそれを見てはっとしたように、


「すみません。しゃべりすぎました」


「いや。話を聞かせてくれて、ありがとう。アグネスさんはきっと見つかるだろう。わたしがその力になれるかはわからないが」


「どういたしまして」アンナはそっけなく言った。クララが「やれやれ」と肩をすくめる。

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