1-5
天使長から渡された資料を抱えて、教会の扉を開いた。教会は常に開かれている。子羊を拒むことはない。
バシリカ式の聖堂。ずらりと並んだ長椅子。わたしは適当な席に腰を下ろした。資料を膝の上に載せる。しかし、すぐに読む気にはなれなかった。
祭壇にはリースとリボンで飾られた蝋燭が四本並んでいる。待降節の蝋燭。いまやそのすべてに火が点り、間近に控えた聖夜を待っている。
祭壇の壁には高い位置に十字架が、その少し下の壁龕には腹の膨らんだ聖母像が鎮座している。メシア受胎。その神々しさが学生たちの目線をひきつけてやまない。
――どうして、聖堂の聖母様はお腹が膨らんでいるんです?
――すべての生命は神の御心によって創造される。そのとき遣わされるのが聖霊だ。この島のキャベツ畑にしても、あくまで聖霊が運んでくる命の受け皿にすぎず、命そのものを創造することはできない。
人は古より聖霊を迎える祭壇を用意することで子供を授かって来た。祭壇の構造や材料、供物の種類が変わっても、その伝統は変わらない。そうでなかったら、人類はとうに滅んでいただろう。人間の願いに、神がよしと言われ、初めて生命は誕生する。
――その唯一の例外が聖母様だ。聖母様は天使ガブリエルからメシアの受胎を告げられた。人間の体内に全く別の生命が宿る。想像しがたい現象だが、メシアの誕生にはふさわしい奇跡だろう?
わたしは祈った。
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