1-4
「それで引き受けたの?」
「ああ」
寮の部屋に戻った。部屋ではイザベラが雑巾を縫っていた。聖歌を口ずさみ、ポニーテールをリズミカルに揺らしながら。だが、わたしがママとの一件を話すとそれどころじゃなくなったらしい。針を動かす手がぴたりと止まり、歌が止まり、ポニーテールが止まった。
「いいんじゃない? サムの時間なんだもん。好きに使えばいいよ」
「すまない」
「どうしてサムが謝るの?」
「君との時間を削ることになる」わたしは言った。「君は最近体調が悪いようだし……」
「ねえ、サム。それって心から言ってる? わたし、口先だけの言葉ならいらないよ」
「ずっと一緒なんだ。そのくらいわかるだろ?」
「そうだね。ずっと一緒だった。それでは飽き飽きしてるんだ。陰気で粘着質で世話の焼けるルームメイトなんかほったらかしにして外で遊びたいんだ」
「イザベラ」
わたしはイザベラの肩に手を置いた。イザベラのすぐ背後に、聖母子像が鎮座する壁龕が見えた。
「何よ。サムは探偵探偵ってそればっかりじゃない。探偵の何が大事なの? 失せ物なんてそのままにしとけばいいじゃない。本当に大事なものなら失くしはしないわよ。みんな面白がってサムを頼ってるだけなのにそれがわからないの?」
「でも、今回の件はママの依頼だ」
「いなくなった子が何? ほっといたらいいじゃない。この島にどんな脅威があるっていうのよ。害のない子羊しかいないのに」イザベラは続けた。「そうよ、きっとその子もと遊びたいだけなんだわ。この前、別の子が遊んでもらったのを見て、思いついたんでしょうね。なんてあさましいのかしら」
「イザベラ。あの子のことを悪く言っちゃいけない。記憶が戻らなくて苦しんでるんだ」
「あの子? やけに親しそうに言うのね、サマンサ」
「言うのを忘れたが、さっき会ってきた」
「サマンサにはたくさんお友達がいるのね。その中でわたしは何番目なのかしら?」イザベラは声を立てて笑った。「出て行って! そのかわいい子羊でも相手によろしくするのね」
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