第17話 狼、温泉宿をつくる(11)


 捕まえた尾行者は、トビザルと名乗った。

 小柄な男で、猿面だった。背格好だけならスコールと同じくらい。もっともこの手の、裏に生きる人間は栄養問題から発育が悪いとも聞く。


「主人の名前は?」

「……っ」プイッと顔を背ける。

「ダイスケ・サナダで、いいのか?」


「……っ」


「お前は、俺に名を名乗った段階で密偵として、負けだ。次は使い番として用件と目的を話せば、解放してやるよ」


「サシだ」

「ん?」


「狼とサシで話がしたい。そばに誰かがいたら死んでも口を開くなと言われてる」


「ふぅん。やったら──」

 ウルダが不敵な笑みで掌に拳を叩きつける。もう今日はホントそういうのいいんで。


「もういい、わかった。スコール。ウルダ。どこかお店に入って何か食べてきてよ」


 俺は二人に銀貨五枚を差し出して、人払いを頼んだ。


「えー。狼。オレ達、狼の護衛に来てんだぞ?」

「だって仕方ないだろ。人払いをしなくちゃ何も話さないって言うんだから」


 ぐぅ~。腹を鳴らしたのは、トビザルだった。


「お前も何か食べるか?」

「て、敵の施しは……っ」ぐぎゅう~。


「お前はやせ我慢できても、身体は正直みたいだぞ」

「こ、殺せっ」


「それじゃあ、死ぬ前に何か食べたい物はあるかい?」

 トビザルはニホンザルみたいに顔を真っ赤にして唇を噛みしめた。


「……カツドーン」


 俺は思わず耳を疑った。


「お前、食べたことあるのかっ?」


「ない。だが家政長が昔、食べたことがあるらしい。生の豚肉から揚げた物を、ショーユという魔法のソースにつけて煮込んだ物だと教えていただいた。聞くだけで美味そうに思った」


「それ微妙に違うな。煮込んだら、カツ丼じゃなくカツ煮だな。軽く煮るだけにしとかないと揚げた豚肉の衣が崩れる」


 トビザルは目をパチパチして、俺を見あげてくる。


「知っているのか、狼!」おい、その言い回しはやめろ。


「どうするんだよ、狼。こいつ、なんか急に面倒くせーぞ」

 スコールが雲行き怪しそうにこちらを見る。俺は肩を落とした。


「仕方ない。帰りに市場で食材買って帰ろう」

「マジか。狼。作れるのかよ、そのカツドーンっ!?」

「カツ丼な。俺の中では禁断の料理だけどな」


「き、禁断……っ!?」その場の全員が声を奮わせた。


「醤油と味醂がまだ手に入らないから、正当な物が作れないんだ。んー、ならドミグラスソースで食べてみる? 今からソースまで作るのは大変だから、どこかで買って帰らないとな」


「それなら、いいとこ知ってるぞ! 匂いで美味いとわかるからな」


 トビザルが喜色ばんで腰を浮かせるが、すかさず俺の護衛二人が抑え込んだ。

 妙な風向きになってきた。どうやらこの男の様子からだと、ダイスケ・サナダは俺の命を狙ってきたわけではないのか。でも、余人を気にして人払いさせるのはなぜだ。


 とにかく帰ろう。どうせ宿にはもう二人、困った預かり物が腹を空かせているだろうからな。


   §  §  §


 トビザルがいい所と言うのは、〝タンポポと金糸雀亭〟のことだった。


「なんだい、お前。また来たのかい」

 捕虜を見て、女将イルマが腰に手を置き、呆れた声をもらした。


「知り合いですか」

「最近よくこの辺に寄りついてるんだ。たまに下働きなんかさせて、メシを食わせたりもしてたんだよ」


 ウルダがなつくだけのことはある。イルマは面倒見のいいおばちゃんだ。

 それにしても俺の定宿を探り当てて、宿主人と顔見知りにもなっていた。この男、意外に腕のいい密偵なのかもしれない。


「彼から、イルマさんのドミグラスソースが絶品だと伺ったものですから」

「おやおや。お目が高いねえ」


 イルマはまんざらでもなさそうに鼻をそびやかした。


「うちは翡翠荘のくりや番じこみでね。ルウ(小麦粉とバターを炒めてペースト状にしたもの。様々な料理の基になるつなぎ)に手を抜かず、フォン(煮だし汁のこと)の骨肉もとことん煮詰めたものを使ってるからね」


「なるほど。それじゃあ、そのご自慢のソース六人前と、厨房を少しの間お借りしても?」

「タダじゃあ、ダメだね」


 イルマは物欲しそうな目で俺を見る。


「あんた、面白い料理を作るんだって? 今日は何つくるんだい?」

「ザグレヴチュキ・オドルェザクです」

「ふーん、割と平凡だね」

「ただし、生の豚肉で」

「え、生の豚だって?」イルマの眉が警戒に強ばった。


 ザグレヴチュキ・オドルェザク。いわゆる〝王国風カツレツ〟のことだ。


 子牛肉を使ったチーズカツレツになる。セニでは夕食に供されるのが一般的で、コースであればメインディッシュ。カテゴリはステーキの扱いだ。


 チーズと合わせて衣に包んで揚げるため、揚げる温度が低く、肉も煎餅状に薄く叩かれる。食感としては、やわらかいチーズハムカツだ。


 一方で、彼らは生の豚肉をあまり料理に使わない。おそらくアスワン帝国からの宗教文化の影響や、家庭料理における加熱不足による食中毒──E型肝炎や条虫感染症を経験しているからだろうが、豚肉は加熱処理された保存加工肉むき、という認識が強い。


 なので、冷蔵設備のない市場の豚肉はハムばかり。生の牛肉はあっても、生の豚ロースを見つけるのにちょっとだけ苦労した。


 小麦粉、卵、パン粉を用意し、卵には少々の菜たね油を加えておく。それらに下処理した豚肉にくぐらせ、衣をつける。油は肉が浸かる高さまでひいた大鉄鍋フライパンに、冷たい油から一〇分程度かけてじっくり揚げていく。


 衣がきつね色になったところでひき揚げ、今度は高温の油鍋でさっと揚げる。三〇秒から一分いらないくらい。すなわち、二度揚げだ。

 これで中はジューシ、衣はサクサクのとんかつが出来上がる。

 もちろん、ヒロインとなるコメの支度も怠ってはいない。大きな土鍋で二〇分炊き。

 ここでうっかり計算ミスをして、食い扶持が一人増えていたことを失念していた。炊いたご飯が、馬車係も入れて六人前しかない。


 仕方なく俺だけカツレツになった。あと、どんぶりがないので木のサラダボウルにご飯を盛る。欧米ではコメも野菜扱いだしな。


 そのカツを載せた飯にイルマ特製のドミグラスソースをかけて、子供たちに供した。


「豚肉のオドルェザクも、いいねえっ。うちのドミグラスソースにも合ってるよ」

 ひと切れを口に入れて、イルマが目を見開いた。


「よかったら、これ。残りもどうぞ」

「えっ。いいのかい?」

「その代わり、シチューもらえます?」


 油鍋を二つ使って久しぶりに六人前の揚げ物を作ったから、油酔いした。換気し忘れるミス。

 土鍋の底のお焦げを集めてそこにシチューをかけて腹に入れる。これはこれで美味い。


 編集者時代は店屋物のメンチカツで、カツ丼がそろそろ胃に重い歳になってきてもいた。

 ツカサはさっぱりした物が好きだった。揚げ豆腐は喜んで食べるが、肉類をあまり好まない。とんかつのオーダーを受けた記憶が、ない。


(やっぱり俺の基準は、まだアイツか……)


 嫌な思い出じゃない。むしろ、楽しすぎたのだ。

 気のあった親友との生活が、はた目に恋愛と勘違いされるほど楽しかったのだ。

 ツカサと出会って間もなく、俺との非生産な関係を疑った交際中の彼女とは喧嘩別れになった。その彼女との交際期間三年で楽しかった思い出は、別れてから一度も思い出せなかった。

 それすら、ツカサが二年間で全て埋めていった。

 東京と京都。スマホ一つあれば、距離なんてなかった。


 だからアイツのいない世界が、ひどくつまらない。


 あのまま事件が起きず、普通に仕事して、普通の結婚をして子供ができても、きっと俺はあの世界で満たされることはもう、なかったのかもしれない。


「なあ、ツカサ……。今日、とんかつだぞ。……お前、どうする?」


 声にして息が詰まり、厨房の真ん中でふさぎ込みたくなる。


「狼っ。おーおーかーみっ!」


 急に呼ばれた気がして、顔を上げる。厨房カウンターの向こうで、ニフリートの屈託のない笑顔があった。


「とても美味しかったのじゃ。狼。また作ってくれよ」


 この子は身分の隔たりなく気配りのできる、本当に優しい子だ。ティボルが惚れるのもわかる。彼女を生還させた凱旋で、夜を徹して人々が彼女の還りを待っていたのもわかる。


 この子達は、一体なんなんだ。


 なぜオイゲン・ムトゥは、あれほどまでに彼女の心配を遺して逝かなければならなかった。


(なあ、サナダ。あんた、本当は俺に何が言いたかったんだ……)


「お褒めの言葉、ありがたく存じます。ニフリート様。あとでお話しがあります」

「お、おう……相わかった」


 ウルダも十五歳になればあんな感じか。たった二年先の成長が親には気が気じゃないな。

 俺は冷めかけたシチューに沈んだお焦げをかき込んだ。


  §  §  §


「『かべに みみあり、しょーじに めあり。

 ほしがみ もうろう なれど ちにみえざるて こそ あり』」


 トビザルが神妙な口調でたどたどしく言った。日本語で。

〝タンポポと金糸雀亭〟の宿泊室。

 約束通り、俺とトビザルの二人きりで、ダイスケ・サナダの言葉を聞いた。


「なあ、トビザル」

「なんだよ」

「スコールとウルダがいなくてよかったな。いたら、お前。斬られてたぞ」


「なんでだよっ」


「その伝言は、俺にもわけがわからないからさ」


 お手上げだと、両手を挙げて見せた。

 トビザルはとっさに自分の記憶力を疑って動揺したが、


「ふんっ。せつは命じられたまま、伝えた。これ以上は殴られても斬られても、拙も知らんぞ」


 居直ったようにイスにふんぞり返られた。


 俺は下あごをもふった。


「星がみ、朦朧なれど、盲聾なれど……」

「ちにみえざるて、こそ、あり。だ」わかってるよ。さっき聞いたから。


「なあ、トビザル。お前、地元は?」

「ジュニメアだ。物心ついた時には地下水路で暮らしてた」


「親は」

「親と呼べるのは、マージ爺さんだけだ。もうずいぶん前に死んだ」

「そっか。大変だったな。なら、歳は」


「二三」

 やはり異常なまでに小柄だ。厳しい飢えと闘って生き残った代償だろう。


「お前を知っているのは、ダイスケ・サナダだけか?」


「あの方と会ったのは名前をもらった時と、今回の二度きりだ。拙たちは宮殿の外で飼われている〝下肢げし〟だから、本当は会える身分じゃない」


 ドミカツ丼の効果か、役目を果たし終えたからか、口がなめらかだ。


「なら、報告は? どうやってダイスケ・サナダにツナギをつけてる?」

「各治領のはずれ町に行く。そこで知り合いに会えるから言づてを頼む」

 今さらながらに役目を思い出したのか、口つぐむ顔に後悔が浮かんだ。わかりやすいな。


「どうせ、デーバだろ?」

「ッ!?」

 顔。そこは何がなんでもで本音は隠せよ。


「別に心を読んだわけじゃない。今朝、親征軍がティミショアラから撤収した。中央都までの帰還ルートから、サナダがあらかじめ手下を置いておける町を考えれば、デーバの町くらいだろうと見当をつけただけだよ」


 デーバの町ならアゲマント治領だけでなく、北の中央都や北西のアラム治領、南のアルジンツァン治領にも目が届く。情報拠点としてはもってこいだ。


「……」

「トビザル。俺の手紙をダイスケ・サナダに直接届けることができるか?」


「直接は、無理だ。拙はあの方の居場所を教えられていない。〝上肢じょうし〟といって、サナダ様の直接手足になって働いてる連中にツナギをつけなくちゃならない」


 防犯、情報、組織統制から末端にまで主人の居場所は教えないか。管理体制はできてるわけだ。


「じゃあ、デーバまで戻って伝えたら、その後、お前は何をするんだ?」

「次の指示待ちだ。けど、こっちに戻ってきて付け木を売るつもりだ。デーバよりうるさく言われないから、結構儲かりそうだ」


 付け木売りは、いわゆるマッチ売りだ。江戸時代の子供のアルバイトだったそうだ。ツカサの受け売りだが、彼らは火打ち石や、燃焼剤となる硫黄や油綿などを売って歩く。もっとも、放火事件が起きると真っ先に疑われたし、親方からピンハネの温床にもなっていたらしい。


「なら、その間だけでも俺に雇われないか」

 ドンッ。言った直後に、隣室の壁が叩かれた。壁の向こうで誰かがズッコケたのかもしれない。 

 もぉー。うちの子らの、なんとわかりやすい反応か。


「今のは?」

「ん。まあ、文字通りの〝壁に耳あり、障子に目あり〟ってやつだ」


「へ? あー……えっ、あれって姿は見えないのに聞かれてたって意味なのか?」


 せつな、俺の頭に落雷が落ちた。


 (──ヒントは、日本語っ!?)


 壁に耳あり、障子に目あり。

  星がみ     盲聾     なれど

 地に  見えざる手  こそ     あり


 もももも朦朧もうろう盲聾……星がみ、星、天体、裸体、17、希望、絶望からの再生

 バラバラに撹拌されていた言葉の渦が、あちらこちらで融合し、言葉を創り出していく。 

 

「星 が 見えざる手 なれど……血にこそ 盲聾あり」


(そういうこと、なのか……っ!?)

 足下から頭に向かってヒラメキの電気が駆け抜けた。


 星とは、五芒星、いや六芒星。

 血とは、龍人の血、遺伝子。龍人ゲノム。つまり〝複製体〟。


 盲聾とは、目が見えないこと耳が聞こえないこと。と同時に、漢字の部首パーツだ。


 すなわち日常での耳と目はあるのに、〝亡き龍〟が、それを上から抑えつけている。


 抑えつけている龍とは、死せる(?)龍人・大公サルコテア。


複製体ホムンクルスが無意識下で……大公によって統制されているッ!?)


 ──複製体を介して大公に、盗聴されているよ。狼。


「スコールっ。スコールっ!」

 隣室から勢いよくドアが開く音がして、俺のいる部屋にスコールが飛び込んでくる。


「紙だ。紙を持ってきてくれ。獣皮じゃなく植物紙の。ロギが作ってくれたやつだ」

「う、うん。わかった」

「トビザル」

「えっ」

「念のためだ。身体検査をさせてくれ。服をすべて脱ぐんだ。今すぐここで」


「ええっ、全部? な、なんでだよお」


「ワケは話せないっ。だがこの場で一度きりだ。すぐすむ。仕事だと思って脱いでくれ」

 トビザルに服を脱がせると、わきの下から足の裏まであの複製体の六芒星がないか確認した。


(密偵の中で使い捨てとされる末端に、こんな重要な情報を託す。危険すぎるが、他に方法がなかったんだな。そうなんだよな……サナダっ)


 ダイスケ・サナダの一身いっしん是胆したんぶりに舌を巻くばかりだ。


 トビザルに服を着させると、戻ってきたスコールから数枚の紙と鉛筆棒を受け取った。

 鉛筆棒は、木の枝の先を鉛筆状に尖らせただけの物。俺がペルリカ先生に手紙を書くと思ったのだろう。だがナイス機転だ。


「トビザル。今から俺はサナダ宛てに手紙を書く。お前は、それを持ってツナギ役とあって、この手紙を渡すんだ」


「う、うん」

 服の首回りで頭を引っ掛からせながらトビザルはうなずいた。

「ただし、ツナギ役には、この手紙は家政長以外が中を覗いた場合、書かれた字が消え、目がつぶれる呪いをかけておく。そう言っておくんだ」


「えっ。呪い? ……わ、わかった」


 続いて、俺はスコールに小さな金袋を手渡した。


「二時間ほど。トビザルも連れて、みんなで町へ遊びに行ってきてくれないか」

「ええっ? でも」


 俺は強くかぶりを振った。


「だめだ。今回ばかりは俺を独りにしてくれ。アウラール家家政長との信頼関係がかかってる。彼と真剣勝負をする手紙を書く」


「手紙で真剣勝負……なんかよくわかんねーけど。わかったよ」


 俺は彼らを部屋から追い出すと鍵をかけて、手紙の作成に全集中をかけた。


「ったく。三人の家政長の中で一番ヤバい告白を受けちまったな。礼なんて言わねぇからな」


 悪態を吐き捨てながら、俺は口許が緩むのを禁じ得なかった。

 ライカン・フェニアこと、ニコラ・コペルニクスが逃げ回っている真相がわかった。


 だが証拠はまだ、ない。


 試しに、この推測をティボルやリンクスの前で口にしてみたいが、たぶん数日のうちに俺は大公の側近たちによって口封じに遭うのだろう。二人は〝複製体〟だ。博士の身にも危険が迫る。


 俺が宮殿でリンクスに話した。コペルニクスの所在に指をかけていることを。

 それを大公がリンクスの複製体を通じて聞いて、知ってしまった。


 さらに、俺がティボルに大事な相談があると持ちかけた。聞いてみれば、知らない女のデキちゃった話の相談だ。さすがにちょっと焦れたのかもしれない。


 だが、大公は焦らなかったはずだ。俺の周りには複製体が大勢いた。

  

 そんな中で、家政長ダイスケ・サナダだけは、大公の関心をかわすには足りないと読んだ。彼はあそこで会議を解散させるため、賓客を白眼視するような傲岸ごうがんな態度に出た。

 あの場で俺が本気でブチ切れることまで予想していたかは不明。当人も剣を抜くことまで想定した演技だったかは微妙だ。


 それよりも、彼らは心から大公が怖かったのだ。そりゃあ怖いだろう。


 自分の思考とは無関係に、見ているものや聞いているものが、別の誰かに盗覗とうしされ盗聴されているのだから無自覚でも痴漢に遭っているようだ。


 それに気づいて自殺しても、〈パンドラシステム〉によって死亡の前後五分間の記憶は消される。自分がなんのために自殺を図ったのかを思い出せなくなる。


 ティミーは何度も自殺を図った。その真相は、誰かに見られてる。聞かれている無自覚の圧迫だったのではないか。大公の存在まで気づかぬまでも、視聴ジャックされ続けている嫌悪感と不快感に耐えられなくなったのかもしれない。


 それなら複製体の耳目から送られてくる情報を統括しているのは誰なのか。大公なのか。

 そもそも、こんな悪趣味なシステムを作り上げたのは誰だ。


(ニコラ・コペルニクス……か!?)


 不思議と怖くはなかった。むしろ、怒りに近い闘志が燃えたぎってきた。


 こんなクソ気色悪いこと、さっさと終わりにしたい。でもって、博士とハティヤを帝国まで迎えに行きたい。博士とハグを交わしたあと、小一時間問い詰めたいことが山ほどある。


 でも、そのためには準備をしなくてはならない。


 綿密に。周到に。


 俺は俺自身の欲のために、ヤツらの世界を終わらせてやる。

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