毛が生えてきた~っ!!

「…ん? あ、あれ? え、あ? あ~っ!!」


いつものようにゲームしてて、何となく違和感があってパンツの中に手を突っ込んでまさぐったら、思わずそんな声が出ちゃった。


「なんだ~? 何があった~?」


背中を向けたままパパが言うから、


「毛が…毛が生えてきた~っ!!」


って説明する。なのにパパは、


「それはおめっとさん」


と平然としてた。


「ぐわ~っ! 私も毛が生えるんだ~!? ショック~!!」


信じられない! ワケ分かんない! なんだこれ!? なんでこんなもん生えてくるんだ!? おかしいでしょ!? こんなとこに毛が生える意味あんの!? どういう理由で人間の体にこんなののこってんの!? 教えてプリーズ!!


「私ももじゃもじゃになんの~? もじゃもじゃに~!?」


「なるよな~。美智果は髪質もお母さん似だから、そっちもお母さんそっくりのもじゃもじゃになるぞ、きっと~。覚悟しとけよ~」


「ひい~! いやぁあ! もじゃもじゃはイヤぁ~っ!」


「そうかあ? お父さんは美智果だったらもじゃもじゃでも平気だけどな~」


「パパは平気でも私はイヤなの~っ!」


「あきらめろん。誰しもが通る道だ」


「くっそ~っ! まだだ! まだ終わらんよ!!」


「って、お前は赤いコメットさんか。ま、確かに完全にもじゃもじゃになるにはまだちょっと時間はあると思うけどね。そのうち気にならなくなるよ」


「うぅ…、イヤだなあ……」


「でも冗談抜きで、お父さんはお母さんのことが好きなんだぞ。そういうもじゃもじゃも含めてね。だからお母さんが残してくれた美智果のことも好きだ。


それに、人間の体っていうのはアニメやフィギュアのと違って綺麗なばっかりじゃない。


お父さんは美智果のおむつも替えた。ウンチもおしっこも素手で触った。ゲロの始末も何度もした。それどころか今じゃ生理の血で汚れたパンツだって洗う。それでもお父さんは美智果のことが好きだ。何があったって好きだ。もし美智果が事故や病気で寝たきりになったって好きだ。一生、おむつだって替えてやる。


それを思えばもじゃもじゃくらい余裕だよ、余裕」


「そうは言うけどさぁ……」


確かにパパは私がもじゃもじゃになっても好きでいてくれると思う。もじゃもじゃがイヤならママと結婚なんかしてないし、私だって生まれてないと思う。でもね、だけどね、イヤなもんはイヤなんじゃあ~!!


クラスの子とかには、「生えてこなかったらどうしよう…」なんて心配してる子もいて、早く生えてきてほしいって思ってる子もいるらしい。だけど私は何かヤなのよ~!


大人になんてなりたくな~い! ずっとパパに甘えてた~い!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る