もし私が家出したら、みっちゃんのとこに来ていい?

「ね~、みっちゃん。もし私が家出したら、みっちゃんのとこに来ていい?」


夏休みが終わって学校が始まったある日、マリーがいきなりそんなこと言いだした。だから当然、私も、


「いいけど、どうしたの? マリー」


って訊き返す。するとマリーが、


「最近、お母さんがむっちゃウザくてさ~。毎日キレてるの」


だって。


「お母さんが? それともマリーが?」


「う~ん、両方、かな。お母さんがキレるから私もキレちゃうみたいな」


「なんでお母さんキレちゃうの?」


「知らない。お父さんとケンカしてるみたい。離婚するかもしんない」


「え~? それってヤバいじゃん。大丈夫なの?」


「分かんない。大丈夫じゃないかもしれない。でもいいの。私が何言ったってあの人たちは関係ないみたいだし。言うだけ無駄だから」


「マジか~。うちはママとパパ、めっちゃ仲良かったからな~。信じらんない」


「いいな~。自分達で勝手に結婚しといてそれで上手くいかないからって子供に当たるとか、マジ、ウザいよね」


「あ~それ、確かにウザそ~」


「その点、みっちゃんとこは今はお父さんだけだからケンカとかないのも楽だよね」


「ま~ね。パパ、めっちゃ優しいし。でも時々、機嫌悪い時は怖いんだよ~」


「へ~、何か想像できないね。いっつもみっちゃんには甘々じゃん」


「いやいや、そうでもないんだよ、これが。一緒に暮らしてみたら分かるよ」


「そうかな~。でもそうなのかな。私がもし家出してここに住むようになったら、分かるかな」


「分かると思うよ。でも、一緒に住むってなったら、私もパパもパンツいっちょだよ。大丈夫かな」


「あ~、そうか。オジサンのパンツ姿か~。お父さんのパンツ姿は見慣れてるけど、よそのオジサンのはさすがにキッツいかな~」


「それでも良かったら家出してくる?」


「う~ん…やっぱ今はまだいいかな~。もうちょっと我慢してみる」


な~んて話を、私はマリーとしてた。隣の部屋にはパパがいて、私達の話はたぶん、丸聞こえだ。だけど気にならない。パパはそんなことで私達にお説教とかしてこないから。


パパはちゃんと、私が自分から話すのを待ってくれる。話したくないことを無理矢理聞き出そうとしたりしない。だから逆に話しやすいんだよね。


マリーが言ってた。


「うちの親、私が何か隠し事してると思ったらホンっとしつこいの。あんた達なんかに話せるか!ってこっちは思ってるのに強引に聞き出そうとするんだよ。で、うっかり話したらそっからお小言大会。だから言いたくないんだって何で分かんないのかな」


あ~、そりゃうっとうしいよね。


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