第5話 鳥のうたう嵐の愁い

 売れない



 僕は急降下中に羽ばたいた。偽物の羽だがいい具合に減速し、人々の頭上を低空飛行する。一斉に向けられるレンズ。ビルの切れ間、人通りが少ない路地で落ちた。着ぐるみのクッション性により大して痛くもない。明らかに魔法の力とやらだろう。どこのビルとも衝突しなかった。



「うわあ、と、とりが、鳥が…」



 また若い女の子が、すぐそばで腰を抜かしていた。どうみても着ぐるみなんだが、



「あの、怪我してないですか?」


「しゃべったあああ!!」



 腰を抜かしたまま逃げようとする姿に笑いがこみ上げてきた。がぽっと頭を外す。



「ほら人だよ、大丈夫」


「…うわああ?あ、え?嘘」


「はは、ごめんね驚かせて」


「…すいません、あれあの、マジ嘘でしょ?もしかして唐揚げ定食の人?」



 か、唐揚げ定食?じーっとこちらを見てくるせわしない若い女性に見覚えはな…



「私、あのほら〇〇食堂の」


「ああ!」



 よく行く食堂の看板娘さん。とても明るくてお母さんと一緒にくるくるとよく働く子だ。だけどいつだったか、



「愁いを帯びて…」


「う、うれい?嬉しい?」


「いや、なんでもない」


「え、めっちゃ気になる」


「いやいやごめん」



 彼女はスマホで調べだし、



「心配、悲しみ?いつ?」


「覚えてない」


「んー?増税で値上げするって話の時かな。そういうお兄さんこそ、いつもバカっぽいのに、突然そういう目するよね」



 彼女はいつかのように

 愁いを帯びた眼差しで

 暗く深いのに眩しくて


 世界はこんな眩しくて

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