五十連短歌「最強」

千住

「最強」


最強の人として行く六本木だれも傷つけなくてえらいな


遠浅の渋谷駅前貝を踏むそれも楽しいのかもしれない


朝食にすももを食べるわたくしと既に職場に着いている人


人間にならなきゃ起きてコーヒーを飲んで襟のついた服着て


しろたえの職務経歴ぬばたまの職場 安住の土地はどこだ


百年も生きたくないと言うキミと黒タピオカをわけあう渋谷


暴力を受ける暮らしが板につき優しい人が獣にみえる


目に見えぬ乙女の真珠探してる星座盤への淡い盲信


いま彼が酒に溺れていくことに何も思わぬ渇いた体


守られない代わりに守るものもない心になにかひと枝咲いた


オーロラが見える恵比寿の真夜中は思ったよりも酒臭くない


影のない命影にはなれなくて矢面に立つ哲学ゾンビ


眠かったそれだけかなと思います彼がこの世を去った理由は


梅雨冷えの喘息のため断った縁が流れて消えませんよう


紫陽花をこんもり積んでどうするの毒があるけどどうする気なの


めざめようとする体をおしとどめ日曜朝をそれらしくする


虹を待つふりをしているそんなもの出ても出ずとも離婚裁判


いつもより十円高いコーヒーは不穏を隠す長髪の色


キャラメリゼなめてとろかす? かみくだく? ほんとの君はいつ知ればいい?


コーヒーが飲めないくらい疲れてるバイトもろくにしていないのに


半夏雨に重い体が動かない自販機ばかり光るゆうべだ


あすは雨あさっては晴れ洗濯をするかしないかそれだけのこと


脳内で高らか響くファンファーレ祈りとともに飲む正露丸


草刈機どこへ行っても唸りいる学園都市の初夏の戦争


二十度を下回ってる小暑なら心も冷えて捨てられるかも


清水から遠い平野の民だから濁るひとみを笑わないでね


大切な誰かのためにするように桃を切り分けもりつける朝


くちなしの写真流るるTwitter甘い幻臭もう夏なのに


起き抜けのしなびた喉にしみわたるスイカの赤きょうシフト何時だ


咳をして一人だったらどんなにか大丈夫ですまだ大丈夫


優しさに触れる特権よわきものとして生まれた壊れたいのち


目覚めないしととととしと鳴る雨に抱かれたままで一日過ごす


死にたいと呟く口にリンゴ飴まつりの匂い雑踏の音


味がない水蜜桃を握りしめ滴りおちるつらい きもち


忘れても消えないものが行動のほとんどぜんぶ決めてるような


生きていくことに感じる苦しみによく効く麻薬としてのあんみつ


返さなきゃいけないメールと哀想とヘクソカズラの花冠と


とりあえず今きついのはこの部屋に寝ても寝ずとも明日が来ること


夢ならばよかったことの出がらしだ熱帯夜の手作りレモネード


晴れが降る風が吹かないこの街の湿度でにじむ生きたい気持ち


その瞳その眼差しはこの脳に何を感じてほしいんだろう


きみのこと守れなくって浮いてきた数万円で旅に出ようか


旅行する前から迷子生きるのが不得意だから仕方ないかな


弾薬の代わりに雀の子を孕む茨城空港F4J - 改


「このままじゃ地獄に着くよ」子の声が聞こえて離陸 北が近づく


目耳から入り体をめぐる風ぜんぶが私の声に変わった


なんらかの魔力によって男性をぞわりと欲情させるしらたま


小口切りされたにゃんこの音がするチャーシュー丼にするとおいしい


現実に戻る心が振り向いた金木犀が道に散ってた

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五十連短歌「最強」 千住 @Senju

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