第315話 俺は(偽)彼女さんに部屋中を探されたい
足での壁ドンから10分程が経過した頃、俺は部屋の隅で正座をして待たされていた。
理由は単純に、『他にもエッチなのを隠してるでしょ?私が全部探してあげるから』と言われ、完全に居場所を失ったからだ。
笹倉が初めに見つけた5つ全てが『幼馴染系』だったのは、隠し場所的に偶然同じだっただけで、もちろんそれ以外のジャンルもたくさんある。
いや、そこは胸を張れることじゃないけど。
しかし、探してもらえば俺が早苗を意識して作品を選んでいるわけでないことは分かって貰えるはずなのだ。
それで俺への疑惑は晴れる。そう、晴れる……のだが。
「……あったわ。今度はマネージャー系ね」
ひとつ見つける度に、表紙や裏面を見てジャンルを口にしていく笹倉の精神攻撃は、俺は瀕死寸前まで追い込んでいた。
親しい相手にエロゲーを探されることがこんなにも苦行だとは……。
こんなことになるなら、もっと隠し場所をしっかりと考えるべきだった。というか、早苗に見つけられている時点で気付けよ俺ぇ!
笹倉に見つけられたエロゲー達が、机の上に少しづつ積まれていく。自分でもこんなに持っていたことに驚いているくらいだ。
もちろん、全部自分で買ったわけじゃないぞ?一部には1年程前に千鶴から譲り受けた物もある。どれも女装男子系だったのは、今となっては納得できるな。
しかし、もしそれが見つかったら笹倉はきっと―――――――――――。
「また見つけたわ。あら、碧斗くんはこういうのも好きなのね」
み、見つかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
笹倉が見せつけてくるのは、紛れもなく千鶴から譲り受けた品だった。巧妙に机の引き出しの中に底面と同じ大きさの板を入れ、隙間に隠すという夜〇月方式を採用していたというのに……。
「女装……興味があるならしてみる?今なら私が着ているのを貸してあげてもいいわよ?」
そう言いながら、胸元のボタンを1つ外してみせる彼女。その表情はまるで俺の反応を楽しんでいるかのように意地悪で、頬の薄い赤が顔立ちの良さを引き立てていた。
「も、もう勘弁してください……」
「あら、もう音をあげちゃうの?まだ部屋の半分しか調べていないわよ?」
笹倉はクスクスと楽しそうに笑い、机の上からエロゲーを手に取ると、床の上へ丁寧に立てていった。そしてそれらを円を描くように並べ終えると、そのうちの一つを指でツンと突いて倒す。
すると、ドミノ倒しの容量で並べられた全てが綺麗に倒れた。えっちな表紙か並んで倒れている様子は壮観ではあるが、持ち主の俺にとっては羞恥以外の何者でもない。
ああ、いっそ全部焼き払ってくれ……。
「はい、これで満足したわ。そもそも、本でドミノを作って碧斗くんを喜ばせようとしたら、奥に変なものが見えちゃっただけだもの」
本でドミノ……それで喜ぶと思われているあたり、笹倉は俺の事をなんだと思ってるんだろうな。今時小学生でも喜ばないぞ。
「だから、今回のことは水に流してあげる。碧斗くんも男の子だもの、私もこういうのがあると予想出来なかったのは悪かったわ」
「笹倉……」
彼女は床のエロゲーを丁寧に拾い集めると、それを俺に手渡してくれる。こんなにも寛容な彼女を持った俺は、間違いなく世界で一番幸せな男だ。
…………そう思ったのも束の間。
「――――――――」
笹倉は何かを思い出したように瞳を揺らすと、素早い動きで俺の手の中から5つのゲームを抜き取ると、膝蹴り・板割り・踏み潰しでそれらをバキバキに破壊した。
「ごめんなさい、手が滑ったわ」
満足げにニコッと笑う彼女の表情と、床に落ちた5つの『幼馴染』を交互に見て、背筋がピキっとしたのは言うまでもない。
「あ、ああ……それなら仕方ないよな……」
「でしょ?えへへ♪」
俺にとって、その可愛さが更に怖かった。今度から買うジャンルと隠し場所には気をつけよう……。
そう心に誓った俺であった。
今更笹倉の前で隠しても意味が無いということで、エロゲーの束は先程まで俺が居た部屋の隅に置いておいた。
あの場所でひっそりと佇んでいる姿を見ると、つい自分を重ねてしまって同情してしまう。
後でちゃんと片付けてやるからな。絶対バレない場所を探してやるから。きっと彼らもそう願っていることだろう。
……いや、待てよ。エロゲーって表紙は可愛い女の子なんだよな。なら、彼らじゃなくて彼女らの方が正しいか。
「碧斗くん、また変なこと考えてない?」
「か、考えてないですよ……?」
「どうして敬語?」
突然声をかけられ、つい動揺してしまった。俺はごほんと咳払いしてから、「気にしないでくれ」とベッドの上で隣に腰かけている笹倉に向き直る。
「でも、やっぱり碧斗くんの部屋はいいわね。ここにいるとすごく落ち着くわ」
「そうか?俺には普通だけど……」
「ええ、好きな人の部屋にいるんだもの。好きな物に囲まれるって、幸せな気持ちよ?」
そう言って微笑む彼女の横顔は、幸せを具現化したような表情をしていて、見ているだけで俺も影響されたように頬が緩んでしまう。
そんな笹倉は俺の視線に気がつくと、恥ずかしそうに頬を赤らめ、はにかむような笑顔を見せた。
「碧斗くんも好きな物に囲まれてみる?」
「ん?どうやって……んぐっ!?」
次の瞬間、俺は確かに好きな物に囲まれていた。いや、好きな者に抱きしめられていたという方が正確だな。
「幸せ……かしら?」
俺の頭を抱きしめて、その豊満な
「否定しないってことは、幸せってことよね♪」
こんな状況で幸せじゃないなんて言えるはずがない。だって……口、塞がれてるし。
「んっ……碧斗くん、そんなに暴れないでちょうだい。くすぐったいわ……」
このタイミングで変な声出すなよ!別にいかがわしいことをしてるつもりは無いのに、そういう感じになるだろ!
「んー!んんん!んんんー!」(おい!笹倉!離せー!)
「ふふっ、何言ってるのか分からないわよ?赤ちゃんみたいで可愛い……♪」
「んんんんー!んん!んんんんー!」(楽しむなよ!死ぬ!助けろー!)
「もぉ、ママにぎゅってされてそんなに嬉しいでちゅか〜?」
俺の意思に反して、抱きしめる力を更に強める笹倉。完全に自分の世界に入ってしまっているらしい。
いや、ちょっと……かなり可愛いとは思うけど。笹倉がお母さんだったら幸せだろうなとか、反抗期とか来ても反抗できないなとか、思ったりしたけど!
でも、酸欠はそんなこと考慮してくれない。これ、ギャルゲーだったら、本当に死んで転生した俺が笹倉の子供になるルートに突入しちゃうやつだし。
そうなったら、俺は俺じゃないどっかの見知らぬ男と笹倉の子供として……いや、複雑だなおい!
こうなったら仕方ない。効くかはわからんが、一か八かの強行手段だ。
俺は最後の力を振り絞って、何とか自由に動かせる腕を笹倉の腹に移動させた。そして、ここから何をするのかはご想像の通りだ。
「ひぅっ!?あ、碧斗くん……そこは……だめ……!」
俺の攻撃に身をよじる笹倉。必殺こちょこちょがクリティカルヒットしたらしい。
耐えるために腹に力が入ったおかげで、腕の力が弱まり、自然と彼女の抱きしめから抜け出すことが出来た。
だが、俺の反撃はまだ終わらない。結構苦しかったんだ、もう少しくらいやり返しても文句は言われないだろう。そう思って、ベッドに仰向けに倒れた彼女の脇腹をさらにこちょこちょと……。
「碧斗くん……だめっ……お願い、だから」
―――――――――――――――やめて。
はっきりそう言われて我に返る。面白がってやり返していたつもりが、笹倉は腕で目元を隠ているものの、その隙間からポロリと涙が零れ落ちたのが見えた。
「ご、ごめん……調子に乗りすぎた……」
慌てて手を離すと、彼女は涙を拭いながら、消え入りそうな弱々しい声で言う。
「私……そんなとこ、触られたことなくて……びっくりしちゃって……ごめんなさい……」
それを聞いて、俺は大罪を犯したような気持ちになった。……いや、実際にそう言われてもおかしくないくらいのことをしでかしたんだ。
笹倉の体に触れたり、からかったりできる人って、俺や早苗以外に唯奈くらいしか居ないんだよな。
笹倉ってやっぱり周りからは高嶺の花って感じで、気軽に近付きがたい印象はあるみたいだし、俺の存在があるから男子は尚更だ。
となると、脇腹なんていう箇所に刺激が加わることなんてまず無いに等しい。そんなところに容赦ないくすぐりをしてしまったのだから―――――――。
「ごめん、初めてなら怖かったよな……」
どう励ますのが正解かなんてわからなかったけど、できるだけ傍にいてあげたくて、俺は彼女のすぐ横に体を倒した。
「碧斗くんのために、強くないとなのに……私が弱いのが悪いの……」
「そんなことない。脇腹なんてみんな弱点なわけだし」
「……碧斗くんも?」
幼い少女を想起させられる聞き方に、俺は優しく頷いて見せる。すると、笹倉の表情が少しだけ明るくなった気がした。
「なら、私も碧斗くんと同じくらいの強さにはなっておきたい」
「ん?同じくらいの強さって……笹倉?」
ベッドの軋む音が聞こえ、横を見てみると彼女の姿がなかった。その直後、太ももあたりに相応の体重とぷにっとした柔らかい感触を覚える。
視線を移動させてみれば、笹倉が俺の上に股がって来ていた。その瞳は先程まで泣いていたことを物語るように赤く潤んでいて、手はどこか見覚えのある動きをしている。
「碧斗くんがどれくらい耐えられるのか、先に確かめさせてもらうわね」
「さ、笹倉……待て!それは――――――――」
この後、めちゃくちゃこちょこちょされた。
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