第293話 オカルトさんは肝試しがしたい②
「ちょっと待て!それなら魅音に見てもらえよ」
今にも中身が見えてしまいそうなほどたくし上げられたスカート。俺はそれを止めるために、咄嗟に思いついた言葉を口にした。
「魅音なら女の子同士だからなんの問題もないだろ?」
いくら太もも裏とは言え、少し上に視線をズラせば絶対領域が広がっている。そりゃ、こいつのパンツがクマさんだってことは、中居さんとの鑑賞会の時点でもう知っているけども……。
穿いている下着と穿かれていない状態の下着とでは、色気が格段に違うのだ。例えそれがクマさんパンツであっても!
「魅音には、この傷は悪魔との契約の紋章だって言っちゃってますし……」
「そう言えばお前、厨二病設定あったな。懐かしい……」
「設定って言わないでくれません?あの頃はわっちも本気だったんですから」
「その方が痛いだろ」
厨二病を高二まで持ち込むやつがどこにいんだ。もはや高二病だよ!来年になったら高三病……高い山で起きる吐き気や息切れ―――――――それは高山病だ。……って面白くないわ!
俺は心の中でひとりコントをして、少しだけ寂しい気持ちになりつつ、尚もスカートを握る結城の手を掴んで引き止める。
「なら、神代さんとか御手洗さんにお願いしろよ!」
「あの子たちにこんなの見せたらドン引きされますよ!」
「俺が既にドン引きしてんだよ!」
「なら、引いてるついでに見てくれてもいいじゃないですか!」
「どういう理屈だよ、それ!」
いや、もちろん女子高生の太ももなんてそうそう見れるものじゃないし、見せてくれると言うのなら俺は喜んで見させてもらう。
その代わりに靴を舐めろと言われたら、プライドをも捨てるつもりだ。……いや、したことないけど。
ただ、結城のそれは違うのだ。見たら負けというか、そういう対象じゃないというか……。
「わっちをキズものにした罪を償うと思って!」
「俺の後悔の念を抉るなよ!それに関しては申し訳なかったと思ってるけど!」
てか、火傷跡のことをキズものって言うな。って、前にも同じようなことを怒った気がする。
別にそもそも俺が原因ってわけじゃないんだよな。俺が部室に入ったのに結城が気がついたせいでロウソクを倒しちゃったから……ってだけで。
「スカートの中を見てもらうまで帰しません!」
「一生帰れねぇ!」
「いい加減観念してくださいっ!」
俺によって手を封じられている結城は、最終手段として一度腰を伸ばすと、勢いをつけて思いっきり
身長差もあって、俺の太もも辺りに直撃した攻撃。その衝撃で俺はバランスを崩して尻もちを着いてしまう。
それに続くように結城も後ろ向きに倒れてきた。俺はそれを何とか体全体で受け止める。暗闇の中で何が落ちてるかも分からないし、怪我でもされたらまたイチャモンつけられかねないからな。
「結城、大丈夫か?」
覗き込むようにしながらそう聞いてやると、彼女は何やら口をパクパクとさせて肩を震わせている。一体何を伝えたいのかと耳を近づけてみれば、微かに声が聞こえてきた。
「あ、あたって……る……」
……当たってるって一体何が?と思ったが、その答えはすぐに見つかった。俺のズボンの膨らみが、彼女の臀部……つまりお尻に触れているのだ。
結城は顔を真っ赤にしながらも、俺から離れようとはせず、ただただ悩ましい表情をチラチラと向けてくる。
「結城、ごめん……」
俺がそう誤りながら背中に触れると、彼女は肩をピクッと跳ねさせてから、期待したような目でじっと見つめてきた。
そして俺は手を自分の下半身へとスライドさせ、下腹部……ではなく、ポケットに突っ込んだ。
「ごめんな。懐中電灯の換えの電池、当たって痛かっただろ」
「…………え?」
ポケットから取り出した単一乾電池を見せた瞬間、結城の顔から表情が消えた。暗闇の中でのこの変化は別の意味でドキッとする。
「もうすぐ切れそうだから持ってけって静香に言われてな。まあ、まだまだ大丈夫そうだけど」
軽く懐中電灯を振りながらそう言うと、結城は「そう、ですか……」とそっと俺の上から降りた。よし、これでひとまず安心だ。
……いや、分かってる。男子高校生の諸君らが望んでいることくらい、同じ身分の俺にはよく分かる。
きっと『鈍感主人公気取ってんじゃねぇよ!』って思ってるんだろ?もし、そういう人たちがいるなら、俺はこう言ってやりたい。
『気取らせろよ!』と。
もちろん、結城が俺の腰の上に倒れてきた時は、俺だって結城のように『あ、当たってる……』と思ったさ。
でも、俺とこいつはあくまで友達。おまけに俺には好きな人がいるんだ。ここで手を出すことを考えるよりも、なんとか誤魔化して後味の悪くないようにするのが最優先だろ!
いや、まあ……結城の反応を見るに失敗してるっぽいけど。なんかすごい落ち込んでるし、木に向かってブツブツ独り言喋ってるし。
暗闇効果も合わさって、正直見てはいけないものを見てしまっている感が否めない。だから、今諸君らに言おう。『鈍感系主人公の時代は終わった』と。
落ち込んでいる結城のそばまで歩み寄ると、俺はそっと彼女の肩に手を置く。そしてできる限りの優しい微笑みを浮かべると、空いている方の手の親指をグッと立てる。
「結城って、意外とむっつりなんだな!」
「…………意識、プッツリしたいんですか?」
「も、申し訳ございませんでした……」
目が本気の彼女に、逆らう勇気は俺にはなかった。結城はからかいすぎると怖くなる。覚えておこう……。
その後、飴玉を取ってからの帰り道。距離も残り半分くらいだと言う頃、怒りも鎮まってきたようで、結城がようやく普通に話しかけてくれた。
「もうそろそろですね」
「あ、ああ……」
「そんなに怖がらないでくださいよ、私だって怒る時は怒るんですから」
俺の様子を伺うような視線に、彼女は困ったように眉をひそめた。普段怒らないやつが怒ると怖いって本当なのかもしれないな。
「……悪かった」
「そんなに言うなら正式に許してあげます。その代わり、いい加減な扱いはやめてくださいね?」
「ああ、善処する」
「ん?……善処?」
結城の頬がピクッと動いた。その口調も合わさって、威圧されてる感が否めない……。
「あ、いや……全力で取り組ませていただきます」
「うむ、よろしい」
満足そうに、なおかつちょっと偉そうに頷いた彼女は、「じゃあ、頑張ってくれるお礼の先払いということで……」と呟くと、手首に付けてあったヘアゴムを使い、慣れた手つきで髪をまとめた。
「ま、魔境が再来した……」
「ちょ、ちょっとだけですからね?」
自分から見せておきながら、俺が食い入るようにうなじを観察していると恥ずかしそうに身をよじる結城。
その仕草と表情がたまらなくエロい……。
「あ、あの……近いです……」
気がつけば、俺は吸血鬼の吸血シーンみたいな距離でうなじを見ていた。俺の少し乱れた鼻息がかかる度、彼女の体がピクッと反応しているのがわかった。
「……このまま噛み付いてもいいか?」
「ダメに決まってるでしょうが」
やっぱりダメか。内なる性癖が暴走して、ついダメ元で言ってみたのだが、普通に睨まれてしまった。
「味見だけでも……」
「へ、変な言い方しないでくださいよ!」
ペチン!という音が森の中に響く。顔を真っ赤に染めた結城のビンタが、俺の右頬にクリティカルヒットしたのだ。
これにはもちろん俺も驚いたが、何よりビンタした本人が一番戸惑っていた。
「ご、ごめんなさい!つい手が……」
彼女はそう言って申し訳なさそうな顔をするが、おかげで正常な判断能力を取り戻せたので、むしろ礼が言いたいくらいだ。
「俺こそごめん、調子に乗りすぎた」
「ほんとですよ。怖さ以外でドキドキさせないでください……」
胸を押えながら、生暖かい息を吐き出す結城。その表情からは呆れに近いものを感じられたが、少しするとほんの少しだけ口元を綻ばせて。
「っ!?……お、おい!」
めいっぱい背伸びした彼女が、耳にふーっと息を吹きかけてきた。
日常生活で感じることの無いゾワッとした感覚に、思わず体が反応する。俺は反射的に耳を押えながら、結城のいる方へ顔を向けた。
すると、すぐ近くに彼女の顔があり、そのいたずらな子供っぽい表情につい頬を緩めてしまう。
「調子に乗るのはわっちの仕事なんですからね?」
彼女の言葉に、俺はただ「その通りだな」とだけ答えた。
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