第232話 金髪ドリルさんは質問したい
「昨日、あれからどうしてたんだ?」
翌日、学校に到着した俺は、既に椅子に座っていた獄道さんにそう聞いた。
俺が倒れた時、彼女もその場にいたはず……というか、そもそも彼女が原因なのだが、保健室には姿がなかった。それをずっと不思議に思っていたのだ。
「
「いや、用事ならいいんだ。何かあったのかと思って心配してただけだから」
獄道さんはお嬢様だし、色々と忙しいのだろう。ギャングの娘ってどんな生活なのか、想像もつかないけど。
「結局、胸のことは秘密にするのか?」
「……ええ、そうしますわ。女性は秘密を抱えた方が魅力的になるといいますもの」
そう言って小さく笑う獄道さん。トルネードツインテールも小刻みに震える。
「獄道さん。昨日から気になってたことがあるんだけど、聞いてもいいか?」
「もちろんですわ、スリーサイズとサバ缶組の情報以外なら答えられますわよ?」
彼女は冗談めかした口調で白い歯を見せた。聞きたいことってのは他のことではあるが……何気に前者も気になるな。いや、ロリコンじゃないけど。
「……関ヶ谷様、今胸を見ましたわね?もしや、私のAAカップにご興味がおありで?」
サッと腕で胸元を隠す獄道さん。別にそういう意図で興味があったわけじゃないんだけどな。……でも、AAなのか。
「い、いや、そういうのじゃなくてさ……なんで俺には教えてくれたんだろうなって」
他の誰にも、ましてや女子にさえ打ち明けられなかったというのに、俺には教えてくれた。2人だけの秘密感もあって嬉しくないと言えば嘘になるが、今は不思議感の方が強く感じている。
「それは……その……」
獄道さんは心做しか頬を赤く染め、モジモジとし始めた。もしかするとその理由って……。
「関ヶ谷様だけに教えておけば、秘密が漏れる箇所は貴方様しかいませんもの。他の誰かが知っていた時は、思う存分関ヶ谷様を叩けますわ!」
想像してたのと全然違う!?むしろ真反対だぞ。
その時が来た時に俺を叩く用なのか、彼女はカバンから巨大ハリセンを取り出して高笑いする。
このロリ、見かけによらずに腹黒いな……。
「――――というのは冗談ですわ。本当は、関ヶ谷様を信用しているからですの」
「信用か。嬉しいんだが、会った初日によくわからん男を信用してよかったのか?」
もちろん彼女が秘密にしたいというのなら、俺からそれを外部に漏らすようなことはしない。だが、俺がどんな人間かなんて、昨日も今だってよく分かっていないはずだ。
「出会って初日、ですわよね……」
「どうかしたのか?」
意味深に俺の言葉を繰り返した彼女は、「いえ、なんでもありませんわ」と笑顔を見せる。
「お父様から関ヶ谷様なら信用出来ると聞いておりましたので、その言葉を信じた結果ですので」
「まあ、そう見て貰えたなら嬉しいな。どこが信用出来たのかはわからんが……」
首を傾げると、獄道さんは何かを思い出したようにカバンからメモを取り出す。そして何ページかめくった後、俺にそれを見せてきた。
「まず、関ヶ谷様はお父様より優しそうだからとのことですわ」
「お、おう……」
一瞬、仁さんに比べたら誰でも優しそうだろと思ったが、娘の手前言葉に出来ず、声帯を震わせる直前でなんとか腹の奥に押し込むことが出来た。
「そして、力もお父様より弱そうだと……」
仁さんには自分基準で考える癖があるんだろうか。まあ、大人ひとりを片手で投げ飛ばせる程の力だし、俺なんて弱いどころの話じゃないんだけどさ。
「そして最後の理由が……」
どうせ最後も自分基準の何かなんだろう。容姿、力と来ているから、予想するに次は声とかだろうか。まあ、なんにせよ仁さんより劣ってるなにかだと―――――――――――。
「『かわいい彼女持ちである』とのことでしたわ」
「……ん?」
あれ、なんか思ってたのと違うぞ?
「お父様曰く、優しくて弱くて彼女持ちの関ヶ谷様なら、私に手を出さないだろう……という考えのようですわ♪」
声を弾ませながら、笑ってみせる獄道さんの言葉に、俺は「なるほど」と納得してしまった。
守るのなら強い男の方がいいだろうにと不思議に思ったが、その守り人に襲われてしまっては意味が無い。
簡単に言えば、手を出す勇気もないヘタレがそばにいてくれた方が有難いってことだ。そしてそのヘタレに俺は選ばれたと……。
「喜んでいいのか、悲しむべきなのか……」
だが、ここでひとつ疑問が生まれる。確かに仁さんと会った日、俺は笹倉と早苗との3人でドーナツを食べに行った。
だが、仁さんと会ったのは笹倉と別れ、早苗と二人で帰っていた時のことだ。つまり、その場に俺の彼女はいなかったことになる。
正確には未だに(偽)彼女なんだが、それは置いておくとしても、その場にいない彼女の存在を、仁さんはどうやって知ったのだろうか……。
考えられるのは2つの答え。ひとつは部下を使って、俺や笹倉の事を調べた。そしてもうひとつは――――――――――――。
「獄道さん、その彼女の特徴って聞いてない?」
「聞きましたわよ?確か、背が低くて犬のように可愛らしい茶髪の女の子でしたわね」
そう、もうひとつの答え……いや、真実と言うべきだろうか。もうお分かりの通りだと思う。だが、あえて言わせてもらおう。
「それ、彼女じゃなくて幼馴染だ……」
昼休み、今日もまた俺達の昼食の輪に獄道さんが加わっていた。そして話題は昨日のこと。
「私、関ヶ谷様の彼女さんが小森様だと思っておりまして……なので笹倉様に胸の件をお願いしたのですが、まさか逆だったとは……」
背が低くて犬のように可愛らしい茶髪の女の子という情報を得ていた獄道さんは、勝手に俺の彼女が特徴にあてはまった早苗だと思っていたらしい。
だから笹倉にお願いしたというのも、よく分からない配慮ではあるが、彼女なりに気を使ったのだろう。
結局、俺が倒れたことで実行はされなかったみたいだけど。
「私が彼女のままでよかったのになぁ……」
ネギ入り卵焼きを頬張りながら、残念そうにそう呟く早苗。相変わらずほっぺにネギが付いている。もはやわざとなんじゃないか?
「ちゃんと情報修正してくれて良かったわ。幼馴染の分際で碧斗くんの彼女を夢見るなんて、100年早いのよ。……あら、ネギついてるわよ」
悔しがる早苗を鼻で笑いつつ、ほっぺのネギをとってあげる笹倉。なんだかんだ仲良しだよな、この2人。
そんな光景を見ていた獄道さんは、クスクスと笑いながら2人に問いかける。
「お二人は、関ヶ谷様の事が好きですの?」
「ええ、愛してるわ」
「他の男の子なんて考えられないもん」
予想以上の答えだったらしく、獄道さんは一瞬驚いた表情を見せるが、すぐにまた別の質問を投げかけた。
「では、関ヶ谷様と2人だけの秘密というものはありますわよね?」
2人だけの秘密……その言葉を聞いて、俺は彼女が何を考えているのかを察した。
「私には一応あるわね」
笹倉は顎に手を当てながら小さく頷く。恐らく偽恋人の件だろう。早苗や唯奈すらも知らないんだもんな。
だがそんな彼女とは対照的に、早苗はうーんと首を傾げていた。
「秘密……あったっけ?」
ついには自分の脳を探るのをやめ、俺を見つめてくる始末。いや、頼られても俺だって思いつかないぞ。
早苗を押し倒した時のことは、早苗自身が笹倉にバラしちゃってるし、そもそも早苗は隠し事が苦手だからな……。
「強いて言うなら、早苗には中学まで俺以外の友達がいなかったことくらいか?」
「あ、あおくん!?それは言わない約束じゃ……」
「そんな約束した覚えないな。てか、笹倉も既に察してるだろうし、秘密にすらなってないだろ」
俺の言葉に、笹倉は懐かしむような顔で深く頷いた。
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