第221話 (偽)彼女さんと幼馴染ちゃんは俺たちを取り調べしたい
「さて、そろそろ答えてもらおうかしら?」
刑事ドラマさながらに正面からライトを当てられ、俺は思わず目を閉じてしまう。それに対して早苗は「こっちを見なさいっ!」と机バンバンしてくるが、理不尽にも程があるよな。
前も思ったんだが、そんな古風なライトがこの小森家のどこにあったんだろうか。しばらく住んでいるのに見たこと無かったんだが……。
まあ、今回は前回と違って問い詰められているのは俺だけじゃない。
「天造さんも答えなさい。どうして碧斗くんと一緒にトイレから出てきたのかしら?」
そう、天造さんも俺の横に座っていた。そして俺にかかっているのは『後輩とトイレで何してたんだよ事件』の容疑だ。
どこから持ってきたのか、ミニスカポリスに着替えた笹倉と早苗に問い詰められ、どこか喜んでいる自分を密かに感じながら、俺は容疑を否認し続けている。
だって俺、被害者だし。勝手にトイレに入ってきたのは天造さんなわけで、俺が怒られるのはお門違いというもんだろ。
だが、優しい先輩は自分のために後輩を売ったりはしない。ここは『何も無かった』で突き通せばなんとか―――――――――――。
「私、先輩に連れ込まれました」
「おぉぉぉぉぉぉい!?」
思わず時計を見た。良かった、2時50分じゃない。まあ、放課後なんだし当たり前だけど。
「碧斗くん、それは本当?」
笹倉ポリスのどこか悲しそうな瞳がこちらに向けられる。悪いことはしていないのに、何故か心が痛い……。
「あおくん、答えて!本当に天造さんを連れ込んだの?」
追い打ちをかけるような早苗の問いかけに、俺はみぞおちを殴られたような気がした。いや、俺は何もやってない。やってもいないしヤってもいない。
それなのになんなんだ、この罪悪感は。俺は何に対して罪の意識を持っているんだ?あれか、天造さんのトイレの音を聞いたことか?チョロチョロ……って音を盗み聞きしたことなのか?
「つ、連れ込んではない!それは本当だ!」
両手を上げ、無抵抗の意を示しながら椅子から立ち上がる。ここまで来れば、全て吐いた方がきっと楽になる。正直に話そう、嘘は頭の良い奴しかつけないってバトラーも言ってたし。
俺はそのまま机の横に移動し、笹倉と早苗のいる方に向けて、恥ずかしげもなく土下座をした。
「天造さんのトイレの音を聞きました!申し訳ありません!」
「……」
「……」
2人は何も言わない。ただ、天造さんが飛ばしてきたペットボトルのキャップが後頭部にコツンと当たった。
「……申し訳ありま」
「もういいわ」
もう一度謝ろうとする俺を、笹倉は止める。顔を上げた時に見えたその表情からは呆れ、それから安堵の色が伺えた。
「碧斗くんに後輩を襲うような勇気がないことくらい、初めからわかってたわよ」
そう言ってほんの少し微笑んだ彼女は、俺の腕を掴んで立ち上がらせると……。
「いてっ」
強めのデコピンを俺の額へと叩き込んだ。
「分かってたけど、少しでも不安させるようなことはしないで欲しいわね」
「さ、笹倉ぁ……」
さっきまで悲しそうだった笹倉ではなく、俺の方が彼女に泣きついてしまった。彼女の優しさが、罪悪感で満たされた心を浄化してくれる。
「よしよし。自白してくれたから許してあげる」
優しく抱きしめながら後頭部を撫でてくれる彼女に、俺はいつまでも甘えて――――――「私も不安だったんだからっ!」―――いられるはずはなかった。
横から割り込んできた早苗によって、俺は笹倉と引き離されてしまい、代わりに早苗の胸へと顔を埋めさせられる。
「うぐっ……うぅ……うぅ……!」
苦しい、息ができない……幼馴染の胸で窒息する!?
「ちょっと小森さん、割り込みは良くないわね?」
「だって独り占めするのはおかしいもんっ!」
「碧斗くんは私の彼氏よ?独り占めして何が悪いのかしら」
おいおいおい!そんな話はいいから、俺に酸素をくれ!
「よしよし。あおくん、暴れちゃダメでちゅよ〜♪」
「ずるいわ!私だって碧斗くんに赤ちゃん言葉で……」
「だめですっ!今は私があおくんを癒してるんだから、笹倉さんは邪魔しないでっ!」
いや、癒されるっていうか天に召されるよ。普通に死ぬ、幼馴染の胸の圧に殺される……かゆい……うま……。
「先輩方。関ヶ谷先輩、大丈夫なんですか?」
天造さんが異変に気がついた時、俺は既に意識を失っていた。もう少し遅かったら、俺は『世界一幸せな死に方をした男子高校生』として歴史に名を刻むことになっただろう……。
「……あれ、ここは?」
目が覚めると、俺は見覚えのある部屋で横になっていた。ゲーム内の宿屋の一室だ。
「はい、ココア」
「ココアじゃなくてここはだよ」
差し出されたカップを受け取りながら、それを持ってきてくれた笹倉にツッコミを入れる。
こいつ、このやりとりをするためだけにココアを用意しておくとは……なかなかボケ精神が立派だな。
「ここ、ゲームの中だよな?」
「ええ、そうよ。トイレで天造さんと話したんでしょう?私達もそれを聞いて、今日プレイすることにしたのよ」
いや、まあ……その辺の事情はなんとなく予想出来ていたんだけどな。俺が気になっているのは別のことだ。
「どうやって俺をこっちに連れてきたんだ?」
「普通に天造さんが碧斗くんにゲーム機を被らせて、強制ログインさせたのよ」
「本当に普通だな」
このゲームを作ってしまうような天才にしては、ど普通でかつ強引なやり方だ。
それにしても、寝てる間にログインなんてさせられたら、起きた時にびっくりするだろ。宿屋だからいいものの、これで目の前にモンスターがいてみろ。さすがにチビっちゃうぞ。
「まあ、天造さんのあの様子だとやりかねなかったもんな……」
彼女はトイレで会った時、明らかに怒っていた。だから、俺は今日はプレイすると約束したのだ。それなのに気絶されてはプレイして貰えない。……そうだ、強制ログインさせよう!的な流れだろう。
このゲーム、プレイヤー本人の声だけでなく、天造さんの声でもログインできるってことは、一番最初のプレイ日に認識済みだ。
要するに、彼女なら俺達が眠っていても、気絶していても、やりたくないと抵抗しても無理矢理ログインさせることが出来るという訳だ。
そして俺は気がついた。
「……あれ?」
ふとストレージを確認しようと、目の前にメニュー画面を表示させた瞬間に。
「お、おい……どういうことだよ……」
前回まではその一番下に表示されていたはずの『log out』の項目が、きれいさっぱりと消えていた。
驚きを隠せない俺に、笹倉は落ち着いた口調で告げる。
「私達、天造さんに閉じ込められたのよ」
それが一体何を意味するのか、寝起きの頭にはすぐに理解できなかった。
だが、きっと某有名フルダイブアニメを見ていたおかげだろう。その深刻さだけはじんわりと染み渡るように伝わってきた。
「閉じ込められたって……」
「私達があまりプレイしてくれないからって、ログアウトに条件をつけられちゃったのよ」
そう言われてメニュー画面をよく見てみれば、今まで無かった項目が追加されている。
『やることリスト』
そう書かれた部分をタップしてみれば、いくつかの条件が表示された。これを全てこなさないと、俺は目覚めることが出来ないらしい。
天才少女を怒らせたらゲームの世界に閉じ込められました……ってか?ラノベじゃあるまいし、まさか本当に出られないなんてことは―――――――――――。
「え、まじ?」
「ええ、まじまじのまじよ」
茅場〇彦じゃねぇんだから、冗談はその頭脳だけにしてくれよ……。
俺は全身から力が抜けるのを感じ、そのまま先程まで眠っていたベッドへと倒れ込んだ。
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