第160話 俺はクエストをこなしたい
どうやらこのゲームは、経験値を得られるのはラストアタックを決めた人、つまりモンスターにトドメを刺した人だけという設定らしい。
だから、HPの99%を削っても、残りの1%を他の人に削られてしまえば、経験値はそいつに入ってしまう。要するにいいとこ取りができるってわけだ。
そしてまさに今、俺はそれをやられている訳だが……。
「さ、笹倉さん……?」
「ん?なにかしら」
彼女は構えていたクナイを下ろすと、俺の方へと体を向けた。ここは『草原B』。『草原A』よりも少し強いモンスターがいるエリアだ。笹倉に連れられて来たはいいものの、今の俺のレベルでは戦うことも難しく、何とかアタック&ランを繰り返して削っても、笹倉の召喚する『屍』たちによってラストアタックを奪われてしまう。
一度だけなら別にいい。それが何度も何度もなのだから、ついに俺も和解交渉に踏切ったのだ。
「笹倉さん……いや、笹倉様!どうか俺にも経験値を――――――――――――」
「だぁめ♪」
即答だった。
「碧斗くんが倒しきれないから、私が手伝ってあげてるのよ?最後の1発だけね♪」
彼女はそう言ってニヤッと笑う。これはもう確信犯だな。
「だって、頑張ってる碧斗くんの姿、もっと見たいんだもの。私は経験値が入るし、碧斗くんは私を楽しませられる。ウィン・ウィンの関係じゃない」
「お前、ウィン・ウィンの意味知ってっか?」
「しーらない♪」
そう言って楽しそうに笑う彼女に、俺はため息をついて諦めるしか無かった。
まあ、笹倉がそんな意地悪のまま終わるはずもなく……。
「そんな手があったのか」
「ええ、こうした方が効率的でしょ?」
そう言いながら、彼女は『ネクロマンサー』の杖を振る。すると、地面から彼女に倒されたモンスターが『屍』状態で召喚され、俺に向かってくる。
彼女によると、『ネクロマンサー』に使役されたモンスターを倒すことでも、経験値は得られるらしい。弱体化している分、元のモンスターから得られた経験値よりかは少なくなっているが、雑魚モンスターよりかは多く手に入る上に、『ネクロマンサー』によって使役されているので仲間の『屍』なら簡単に倒せる……とのこと。
笹倉は俺の滑稽な姿を見て楽しんではいたものの、ちゃんと後のことを考えていてくれたのだ。そこに少年が憧れるような死闘はないものの、レベルがなければスキルもないため、低レベル帯ではあまりかっこいい姿は見せられない。
レベリングとやらも醍醐味ではあるが、これからのことを考えると、それを犠牲にしてでも強くなる意味はあるだろう。
そう自分に言い聞かせながら、俺は『勇者』の初期装備であるひのきの棒でモンスターをペチペチと叩く作業を続けた。
笹倉のおかげでレベルが10まで上がった俺は、暗い夜が明けるのを待ってから、クエストとやらを受けに行くことにした。
クエストというのは、NPCが困っていることやモンスターの討伐依頼など、色んなものが『ギルド』という場所に集められていて、達成すると報酬が受け取れるというものだ。
壁に貼られている依頼を見たところ、Lv.10でこなせるものもそれなりにあるようで、俺はその中の1枚を手に取ってみる。
『依頼主:武器屋の店主』
「最近、歳のせいか足腰が痛むようになってきた。すまんが在庫の整理を頼みたいんだ。報酬もそれなりに出そうと思っている。よろしく頼んだぞ」
内容を読んで、俺は少し肩を落とす。やはり討伐依頼なんかはもっとレベルが高くないと受けられないみたいだし、予想はしていたがやはり雑用か。まあ、RPGでも初めは届け物とかだもんな。
俺は表示された『受注しますか?』という表示に『はい』を選択して貼り紙をストレージに入れる。
笹倉とはしばらく別行動だし、どうせなら他のものも一緒にこなしてしまおう。そう思って手頃なものを探していると、レベルフリーの依頼もいくつかあって、薬草が手に入るだけのものはいらないだろうと、報酬が高めのものだけを選び出す。
「よし、全部受注だ」
合計4つの依頼をストレージに入れて、俺はギルドを後にした。
近いところからこなそうと思い、1つ目の依頼である調合屋へとやってくる。
「これを見てきたんですけど……」
そう言って依頼の紙を見せると、店主のNPCはイベントが進んだようで、「おお、こちらへどうぞ」と俺を店の奥へと招き入れた。
依頼内容は確か、調合の手伝いをして欲しいということだったが、一体何をすればいいんだろうか。暗い廊下を進みながら、俺は胸を躍らせていた。
「では、ここにお座り下さい」
廊下の先にあった部屋で店主にそう言われ、言われるがままに椅子に座る。
「あの……俺は何をすればいいんですか?」
器具のようなものを持って戻ってきた彼にそう聞くと、彼は。
「じっとしていてくれればいいだけですよ」
そう言ってピンセットのようなものを俺に向けた。そして……。
「歯を一本、調合のために貰うだけですから……フェッフェッフェ……」
悪い笑みを浮かべて、俺の口の中にそれを突っ込んでくる。『歯を一本』というセリフに、俺は慌てて椅子から転げ落ちる。
「手伝いってそういうことかよ!」
確かに調合屋の手伝いなんて、素人にできるはずないと思ってたけど……レベルフリーだったから受けちまったんだよ!報酬もかなり高かったし、その時点で怪しむべきだった。
「やっぱりやめる!この依頼は破棄だ!」
俺はストレージから依頼書を取り出すと、思いっきり破いて捨てる。すると、店主はスイッチが切れたかのように真顔に戻ると、「あれ、ここで何してんですか?出ていってください」と俺を店の外まで放り出した。
「……まあ、初めのクエストだもんな。上手くいくはずないか」
俺は深いため息をつくと、乱れたスカートの裾を正す。この格好に少しずつ違和感を感じ無くなっている気がするな……。
「次に期待するか」
俺はそう呟いて、次の目的地へと歩き出した。
次に到着したのは八百屋だ。リアルでよく見かける野菜から、見たことも無いものまで色々と揃っている。ここでの仕事は呼び込みをして欲しいとの事だったが……。
先程の調合屋と同様、紙を見せてからクエストを開始する。手渡された店の名前が書かれたエプロンを装備すると、効果『ビックボイス』が付与された。要するに、大声で客の注目を集めろということだろう。
注目を浴びるのはそんなに得意じゃないんだけどな……。そう心の中で呟きつつ、思いっきり息を吸い込んだ。
「らっしゃいらっしゃい!いい野菜が揃ってるよ!」
そういうふうに設定されているのか、俺が声を出した途端、いくらかの通行人NPCが足を止めてくれた。だが、足を止めるだけでは足りない。野菜を買ってもらうまでがこのクエストの内容なのだから。
「そこのお嬢ちゃん!今日の晩御飯は何にするんだい?」
俺はNPCたちの中から、大人しそうな女性を見つけて声をかける。こういうのは勢いで押し切ってしまえば、意外と買ってくれるものなのだ。
「え、えっと……スープと……」
「スープ!それなら野菜が必要じゃないか!もう準備してるのかい?」
「いや、まだですけど……」
「それならここで買っていきな!」
「あの、元々その予定で……」
「……そうですか」
声をかける相手を間違えたらしい。女性は俺の横を足早に通り過ぎると、店主に頼んでいくらかの野菜を買って帰っていった。
これでは買わせたことにはならない。買う気のなかった相手に買わせることが大事なのだ。そんな時はどうすればいいか、俺はちゃんとわかっていた。
「この店で買い物すれば、プラス100
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます