天造ゲームズ 編その1

第153話 俺は白衣の少女のお願いを聞きたい その2

「早苗、帰るぞ〜」

 HRが終わり、帰る準備を終えた俺は、早苗の元へと向かう。今日は作ってきた名言の発表で褒められたし、気分がいい。まあ、もはや咲子さんが作ったと言ってもいいレベルで変えられてたけど、そこは気にしないでおこう。

 急いで準備を整えてカバンを肩にかけた早苗と、2人並んで教室を出た。その瞬間だった。

「ぶへっ!?」

 扉の影から飛び出してきた人と盛大にぶつかり、俺の方が教室の中へと弾かれてしまった。

「ごめんなさい」

 一応は謝ってくれたものの、相手は急いでいたようで、そのまま走り去ってしまう。一瞬しか見えなかったものの、俺はその顔にはっきりと見覚えがあった。

「天造さん、何を急いでたんだ……」

 魅音の友達で、俺の女装を所望していた本人であるあの天造さんだ。

「あおくん、大丈夫?廊下を走るなんて危ないね、あおくんに怪我をさせたら許さないんだから!」

 早苗も心配そうな表情で、カバンを放ってまで駆け寄ってきてくれる。優しいやつだ。

「ありがとうな、でも大丈夫だ。俺は怪我なんかしてないから」

 弾かれてしまったときに尻もちを着いていたので、ズボンについた汚れを叩いて落とし、体の色んな場所を動かして見せる。それを見た早苗は安心したように微笑むと。

「よかった♪じゃあ早く帰ろ!今日楽しみにしてたアニメの放送日なのっ!」

 そう言って教室から飛び出していった。『廊下を走るなんて危ないね』発言はどこへ行ったのやら。でもまあ、今はそれよりも大事なことを伝えないといけない。

「早苗!カバン忘れてるぞ!」

 俺の幼馴染は成長という言葉を知らないらしい。



 小森家に帰った俺は、玄関に入った時に違和感を感じた。俺の履いているのと同じ制定靴が2人分置いてあったのだ。

 早苗が二足目三足目を買ったなんて聞いていないし、誰か来ているんだろうか。そう思いながらリビングへと入ると……。

「おかえりなさい、碧斗くん」

 ソファーに笹倉が座っていた。膝の上に葵を座らせて、頭を撫でてあげているらしい。この風景を見てるだけで和むな……。

「なんで笹倉が?今日ってなにか約束あったか?」

 大事な約束だったら、忘れてたなんて最悪だよな。でも、俺には全く身に覚えがないし、目の前の彼女も首を横に振ったから違うってことだ。

「いいえ、私は彼女に呼ばれてきたのよ。あくまで『ついで』の存在らしいけど」

 笹倉がそういったすぐ後、廊下の方から扉の開く音が聞こえた。咲子さんの仕事部屋の方からだろうか。

 リビングへと満足そうな顔の咲子さんが入ってくる。彼女って咲子さんのことか?一瞬そう思ったが、俺の視界に写った人物は他にもう一人いた。

「先輩、お久しぶりです」

 天造さんだ。以前と同じように白衣を着ている。先程急いでいたのは、この家に来るためだったのか。でも、そもそもどうしてここに来る必要があるんだろう。咲子さんと天造さんとは一体どういった関係なんだ?

「久しぶり……って言うほど久しくはないけど、まあ久しぶりだな」

 俺も動揺しておかしな返事をしてしまった。だが、天造さんはそんなことには触れず、小走りで咲子さんの仕事部屋に戻ると、大きなダンボール箱を抱えて帰ってきた。

「今日は皆さんに頼みたいことがあってきました。聞いてもらえますか?」

 天造さんは淡々とそう言うが、巨大な段ボール箱を見た後では、少し答えずらかった。俺の隣にいる早苗も、少し俺の背中に身を隠すようにしている。

「も、もしかして……その段ボール箱に詰め込まれて、生きてアメリカまで輸送できるかの実験をするんじゃ……」

「んなわけあるかよ」

 実験のレベルがサイコすぎるだろ。なんでそこに生きて輸送できない可能性があるんだよ。そんなんだったら絶対参加しねぇぞ!?

「いえ、実験という部分はあっていますが、そう言う危ないものではありません」

 天造さんの言葉を聞いて、俺は「ほらな?」という目で早苗を見る。彼女はほっとしたような、でも勘違いしたことを恥じるような表情を見せた。恥じれるような勘違いじゃなかったけどな。もはや思考ぶっ飛んでるぞ。

「笹倉先輩にはもう話しましたが、小森先輩、関ヶ谷先輩も含めてもう一度お話しますね」

 天造さんは段ボール箱を開き、中からヘルメットのようなものを取り出すと、それを掲げて見せた。

「この度、私と早咲 苗子先生、そしてGFF…… Gamers' Forever Friendsとの共同開発したゲームのデモ版が開発されました!」

 GFFって確か、日本でもトップクラスのゲーム会社だよな。初めはフリーゲームから始まり、段々と名声と利益を受けながら成長し、今ではそこに務める者はゲームの腕も仕事能力も日本トップクラスだと言われるほど。

 そんな会社が新しく作ったゲームって、絶対にすごいに決まって…………って、そこじゃねぇだろ!

「いや、咲子さんと天造さんがGFFと共同開発……ってどういうことだ?」

 咲子さんからそんな話は聞いていないし、第一に彼女はゲーム会社の社員ではなく、売れっ子小説家だ。ゲームを作る能力なんて持っていないだろう。

 天造さんだってただの女子高校生だろ?GFFとの接点が見つからないんだが……。

 俺が首を傾げていると、天造さんはこんなことを聞いてきた。

「先輩は私がこの前、どうしてあんなお願いをしたのか分かります?」

『あんなお願い』というのは女装のことだろうか。どうしてこんなことを頼まれるんだろうとは思っていたが、理由までは分からず終いだったよな。『いずれわかるから楽しみにしていて』的なことを言われた記憶はあるけど……。

「あの時、私は私の開発するゲームの案に先輩を使う事を決めていたんです」

「…………ん?」

 あれ、今すごいこと言ってなかったか?ゲームの開発だとか言っていたような……。

「えっと……天造さんがゲームを開発したのか?」

 俺の質問に彼女は頷く。

「GFFと共同で……?」

 彼女はもう一度頷く。

「え、本当に?」

「はい。開発者のところに私の名前が書いてあります。見ますか?」

 そう言って差し出されたデモ版の試作ゲームパッケージの裏には、しっかりと彼女の名前が刻まれていた。

「いや、マジか……」

 まさか同じ学校にこんなすごい人がいたなんて……。あれ、でも咲子さんも共同なんだよな?彼女はなんの仕事をしたんだろう。俺がその旨を質問してみると。

「早咲 苗子先生にはストーリーライターをしてもらいました。私、先生の書く世界観が好きだったので、この機会にぜひ一緒に仕事がしたいと思っていたんです」

 なるほど、確かにそれなら小説家である彼女は適任だろう。天造さんの声は淡々とながらも熱い何かを感じるし、もはやゲームを作った作ってないなんて疑う余地もない。結論、高校生の中にはスーパー高校生が隠れている……ってことだ。

「もしかしてだけど、俺たちにテストプレイして欲しいのか?」

 俺がそう聞いた瞬間、ほんの少しだけ天造さんの表情が明るくなった。元々無表情が多いため、これだけでも、その通り!と言わんばかりの変化だ。

「デバック作業や通常のテストプレイは終了しているのですが、やはり参考にさせてもらった関ヶ谷先輩に使って頂かないと分からないことがあるので……」

 俺でなければ分からないこと、とは一体なんなんだろうか。俺にゲームを作る知識なんて全く無いんだけどな。全く無いと言えば、俺がレバーを食べた回数も同じだ。……この話はどうでもいいか、忘れてくれ。

「先輩方、皆さんこのテストプレイに参加していただけますか?」

「ああ、もちろんだ」

「やるやるっ!楽しそうだし!」

「私はやるつもりだから来たんだもの、ふふふ♪」

 こうして俺たちは、天造さんの作ったゲームのテストプレイヤーとなった。

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