第147話 双子ちゃん達は幼馴染ちゃん家に泊まりたい
「くっ……早苗の家に泊まってるなんて聞いてないぞ……」
小森家のリビングにて、茜が悔しそうにそう呟いた。
彼女らの話を聞いたところ、茜と葵がこちらにやってきたのは数日前の喧嘩が原因らしい。母親と喧嘩して、スーツケースを事前に送ってまで家出を計画していたのだ。
しかし、その計画には大きな間違いがあった。俺が自分の家ではなく、早苗の家に泊まっている事だ。葵はともかく、茜は早苗を酷く嫌っているため、この誤算はかなり痛かったようだ。今だって……。
「茜ちゃんは可愛いねぇ〜♪」
茜がいるのは早苗の膝の上、早苗に無理矢理座らされたのだ。わしゃわしゃと頭を撫で回され、苦しいくらいに抱きしめられる始末。茜はまるでお人形さんのように座っていることしか出来ないでいる。
「まあ、隠し事をしていた罰だな」
俺がそう言ってやると、茜はキッと俺を睨みつけて、そして諦めたようにため息をついた。
「あたしが悪かったですよーだ……」
早苗にされるがままに撫で回され、ぐったりとする茜。可哀想な気もするが、やっぱり自業自得だな。
「じゃあ、一応叔母さんには連絡しておくからな」
「そ、それは……」
俺の言葉に、茜と葵が同時に視線を向けてくる。さすがにこっちに来ていることを黙っておく訳にもいかないし、遅かれ早かれ伝えることに変わりはないのだ。それでも2人は伝えて欲しくないらしい。
「家出っていうけどな、お前達学校はどうするんだ?」
「学校なんて少し行かないくらいどうってことないし……」
まあ、中学校ならともかく小学校だもんな。まだ問題は無い方か。
「友達も心配するだろ?」
「ちゃんと帰ったら説明するし……」
ああ、帰るつもりはあるんだな。ちょっと安心した。
「お前らの両親だって、今頃心配してるかもしれないぞ?」
もしも焦って警察沙汰なんかになってみろ。取り返しがつかないことになるぞ。そう伝えてみるも、2人は首を横に振った。
「私たちのことなんて心配してないし……」
茜は少し俯きながら、吐き出すようにそう言う。その表情は明らかに暗く、俺は反射的に聞き返していた。
「なんで分かるんだよ」
あんなに過保護な親が、子供のことを考えていないとは到底思えない。だから、2人が家出までしてしまうのは、きっと喧嘩の理由がものすごいことだったからだろう。
「私たちのプリンを勝手に食べたからだよ!」
「そんなことかい!」
いや、そんなことだろうとは思ったよ。アニメとかだと、大抵しょうもない理由で家出してくるからな。でも、いくらなんでもプリンごときで……。
「そんなこととはなんだよ!ロー〇ンのちょっと高めのやつだぞ!?私たちのお小遣いで買ったってのに!」
茜はまさに激おこプンプン丸モードだ。葵も表情には出さないが、俺の言葉に少し怒っているらしい。まあ、よく考えてみれば、小学五年生がお小遣いで買ったプリンだもんな。それを勝手に食べられたとなると、怒るのも仕方ない気がする。
「でも、それなら買い直して貰えばいいんじゃないか?」
「気分ってのがあるだろ?自分で買ったのと、親に買ってもらったのじゃ、食べる時の感動が違うんだよ」
茜の熱弁に、葵もウンウンと頷いていた。確かに自分で買った消しゴムは、少し使うのが惜しかった記憶がある。小学生というのは単純だから、そういう些細なことだけで嬉しいんだろうな。
まあ、彼女らの言い分も分かるし、ここは言う通りにしておくか。
「わかったよ、今はまだ伝えないでおく。その気になったらお前達から連絡するんだぞ?」
「はーい」という2人の返事を背中に受けながら、俺はリビングを後にした。
……と言いつつ、伝えちゃうんだけどな。
さすがに警察沙汰はマズいと思い、俺は2人の自宅へと電話をした。別に告げ口をするわけじゃないぞ?ちゃんと計画は立ててある。
『はい、もしもし』
スマホの向こうから声が聞こえてきた。久しぶりに聞くが、茜たちの母親の声だ。
「あ、
『何?オレオレ詐欺?そういうのは受け付けてないのよ』
「ちげぇよ!碧斗だよ!」
声以前に着信の時に名前出るだろ。設定してるの見た事あるぞ。
『碧斗くんね、お久しぶり』
「あ、はい、お久しぶりです……って、娘二人が家出してるってのに呑気ですね」
過保護な人達というイメージはどこに行ったんだろうか。まさか、娘のことなんてどうも思っていないとか無いよな?
『だって……そっちにいるんでしょう?』
「……知ってたんですか」
『ええ、前に2人が宅配伝票を見せてきたのよ。これ、どうやって出すの?ってね。そこに書かれた住所と日付で分かっちゃったわ』
あの二人、やっぱりバカだな。家出の計画ガバガバじゃねぇか。……でも、分かっていて放置しているというのは一体どういうつもりなのだろうか。
「もしかして、このまま家出させておくつもりですか?」
『いいえ』
即答だった。
『今回の喧嘩は私が悪いもの。無理矢理連れ戻したところで、きっとあの子たちから嫌われてしまうだけ。大切な娘二人だからこそ、自分から戻ってきてくれることを信じて待つのよ』
なんだ、今まで過保護で面倒な人だと思っていたが、どうやら教育方針を変えたらしい。彼女の話し方に気持ちが入っているところが気になるが、子供は守られるよりも信じて放たれる方が成長するからな。これで正解だと俺は思う。
「それじゃあ、しばらくはこちらで預かるということでいいですね?」
『ええ、問題ないわ。あ、でも……いくら二人が可愛いからって、手は出しちゃダメよ?足もよ?』
「何一つ出さねぇよ」
血は繋がってんだから馬鹿なことは言わないでもらいたい。そもそも俺にロリコンの趣味は無いし。
まあ、こんなぶっ飛んだ性格をしているのも、自分の母親と同じ血と思えば不思議でもないか。むしろ今まで怖い人だと思っていたのが不思議なくらいだ。歳というのは、重ねることでいい方向に転がることもあるんだな。
でも、おかげで話はうまくまとまった。あとはあの双子に帰ってもらうだけだな。まあ、しばらくしたら帰りたくもなるだろ。茜にとっては天敵の早苗がいる訳だし、子供ってのはやっぱり自分の家が1番だからな。
……その時の俺は単純にもそう信じて疑わなかった。
翌日、日曜日の昼頃。
「おい、茜」
「ん?なんだ?」
俺はその光景を見て目を疑った。なんと、茜が早苗の膝に座りながらゲームをしていたのだ。
「お前、早苗のこと嫌じゃないのか?」
「嫌だぞ?でも、早苗に言われちゃったんだよ。『宿泊代としてお膝に座りなさい!』って」
「お前のトラウマはそんな甘いものだったのか!もっと早苗のことを嫌がれよ!幼い日の記憶を呼び覚ませ!」
「もぉ、うるさいな。ゲームに集中できないだろ?向こうに行ってくれ」
くそっ、これはさすがに予想外だ。早苗も早苗で余計なこと言ってんじゃねぇよ。
それにこいつ、茜を構ってる時はすごい幸せそうな顔するし。心做しか、俺に引っ付いてくる時間も減った気がする。あれ、何だかモヤモヤするな……。
そんな俺の心情を察したのか、早苗は口元をニマァと緩ませると、こちらに向かって手招きをした。
「あおくんのこともギュッてしてあげよっか?」
「…………え、遠慮しとく」
「今、少し考えたよね?本当はして欲しいの?」
「う、うるさいな!俺は葵と遊んでくるからいい!」
俺はそう言うと、彼女に背中を向けて部屋を出た。
くそぉ……調子狂うなぁ……。
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