第118話 俺はあらすじに目を通したい
俺は先ほど購入した本(エロ本は除く)の裏表紙に目を通していく。ここに書かれたあらすじを読むだけで、このラノベがどんな種類なのかは大体分かるからな。早苗が戻ってくるまてまでの暇つぶしくらいにはなるだろう。
―――1冊目――――――――――――――――
『隣の美少女が毎日のように押しかけてくるので、俺の一人暮らしがままならない』
先日、マンションに引っ越してきたばかりの主人公。そのお隣さんであるヒロインは、少しばかりお姉さん気質で世話焼き。一人暮らしの主人公を気遣ってか、毎日のように押しかけてきては、家事などをやってくれる。確かにそれはありがたいことだと主人公も思ってはいるのだが――――――――「夢見た一人暮らしはどこへやら……」
―――――――――――――――――――――――
なるほど、お隣さん系ラブコメディか。あらすじを見る限りは、ヒロインは主人公よりも年上だろう。詳しくは書かれていないが、大学生くらいのお姉さんなら、なお良しだな。
実に俺が好きそうなラノベだ。今度、咲子さんに貸してもらおう。
―――2冊目―――――――――――――――――
『義理の姉が過保護過ぎて、彼女なんて出来そうにない』
東京の高校に通うため、一人暮らしを始めた主人公。そんな彼を心配して、追いかけてきたのが主人公の従姉弟にあたる義理の姉。彼女は誰もが羨むルックスに加え、料理上手、運動神経抜群、性格の良さetc…
どこからどう見ても完璧な女性……ではあるのだが、小さい頃から親しくしていた主人公にとっては、やはり単なる従姉弟。楽しみにしていた一人暮らしを邪魔されて、不満を募らせてしまう。
そんな主人公に彼女は何気ない顔で言ったのだ。
「お姉ちゃんが彼女さんみたいに、ぜーんぶやってあげるからね♪」
その日から、主人公は悟った。高校生の間は彼女なんて作れないかもしれない……と。
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ふむ、従姉弟という結婚はギリギリOKな血縁関係者同士のラブコメか。あらすじ的には、主人公はお姉さんに気はなさそうだが、様々なラブコメを読んできた俺にはわかる。
――――――――こいつ、絶対パンツ見るわ。
こういう系は大体、着替え中に脱衣所に入ってしまったりして、着替えシーンを見てしまうものなのだ。そこから相手が女性であることを意識してしまい、ひとつ屋根の下という状況も相まって、主人公はどんどんお姉さんに惹かれていく……。
そんなストーリーの匂いがプンプンするぜ!
―――3冊目―――――――――――――――――
『この度、
やっとの思いで入った勇者パーティー。回復役は自分だけ、魔力回復の余裕もない、延々と唱え続けなければならない呪文……。そのブラックさに嫌気が差し、戦い中に逃げ出してしまった主人公。
身を潜め、勇者達から隠れていた時、探しに来た勇者が小さな声で、「あいつ、使えねぇわ。違うやつに取り替えようぜ」と言っているのを聞いてしまった。
頑張ったのに評価されない勇者パーティー。その現実に絶望していた時、主人公はこんな貼り紙を目にする。
『魔王軍は勇者を倒したい人を常時募集しています』
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その後、主人公は魔王軍に加入。魔王による魔力補助によって、大量の魔物たちにヒールをかけられるように……か。
あらすじから察するに、ジャンルとしてはコメディ寄りの異世界ファンタジーだろう。
正義の味方的立場のキャラが
なんて言うかこう、普段は見れない目線から描かれていることに、新鮮さを感じるんだよな。この作品も期待できそうだ。
―――4冊目―――――――――――――――――
『恋愛成就で噂の神様に全力バックアップしてもらっても尚難しい恋』
主人公には好きな人がいる。同じ万事部に所属している彼女だ。いつもクールで仕事も出来る。毒舌で口が悪く、よく罵られたりもする。
でも、小学生の時から彼女と接してきた主人公は、そんな彼女がごくたまに見せる女の子らしい笑顔に惚れたのだ。時々見せてくれる優しい一面が大好きになってしまったのだ。
だから、いくら冷たくされようと彼女から離れるつもりは無い。いつか絶対に振り向かせてみせる。
なんて思っていたある日、主人公は恋愛成就で噂の神様によって、彼女の冷たい言葉の裏に隠された、本音が聞こえるようになった。
「本当に、あなたは仕事が遅いわね」(君と一緒にいられる時間が長くなるから嬉しい!)
「好きな人?そんなの居ないわよ。私に見合う男なんていないもの」(君の他にはね!だーいすき♡)
「あなたと2人きりだと空気が悪く感じるわね。喚起してもいいかしら?」(6時間目体育だったから、臭くないかなぁ……?心配だよぉ……)
ずっと嫌われていると思っていた相手が、心の中では自分を好いていることを知り、戸惑う主人公。そんな彼は、恋愛成就で噂の神様に全力バックアップしてもらいながら、彼女に告白しようとするのだが――――――――――。
―――――――――――――――――――――――
神様に恋愛の手助けをしてもらうタイプのラブコメか。最近はあんまり見かけなくなった気もするが、現代の学生ラブコメディに神様という少しのファンタジー要素をプラスすることで、展開がスムーズに進行させることが出来て、おまけに普通ではありえないようなイベントだって、描くことを可能にしてくれる。
そういう点では、神様は単純そうで意外と重要なポジションなのかもしれない。
まあ、俺的にはキャラ絵が好みだな。ヒロインの名前が『紅葉』であることを除けば、完璧に引き込まれていただろう。
あの東條 紅葉にクール&ツンデレは似合わないもんな。だって、ドーテーとか平気で言うやつだぞ?クールのクの字もねぇよ。ああ、想像しただけで寒気が……。
俺は4冊目を紙袋に戻し、代わりに次の本を取り出そうとして、ふと手を止める。
早苗のやつ、いくら混んでいるとはいえ、トイレにしては長すぎやしないか?もしかして、何かあったんじゃ……。
彼女の事だから、寄り道している可能性もあるし、心配するほどでもないかもしれない。だが、確認だけはしておいて損は無いだろう。
別に過保護なわけじゃないぞ?念の為ってのは意外と大事ってだけだ。
俺はスマホを取り出すと、メッセージアプリから早苗に電話をかける。何かあったのなら出られないかも、と思ったが、4コール目くらいで彼女は出た。
『あおくん、どうしたの?』
いつもと変わらない声に、俺はホッと胸を撫で下ろす。やっぱり心配のし過ぎだったか。
「いや、遅いと思ってな」
実際、早苗と離れてから20分ほどが経過しようとしている。トイレまではそう遠くないし、もうそろそろ帰ってきても何らおかしくない。
『もしかして、私と離れてて寂しくなっちゃったの?』
からかうような声色でそう聞いてくる早苗。いつもならこの程度のからかい、「そんなわけないだろ」で済ませるところだが、俺も少し仕返しがしてやりたくなった。
「ああ、寂しい。早く戻ってきてくれ」
少し声のトーンを下げて、本当に悲しそうな声を演出してみる。フェイストゥーフェイスならこのニヤリとした口元でバレたかもしれないが、通話越しであるおかげで騙しきれたらしい。
『ほ、ほんと?じゃあすぐに戻るね!』
彼女はそこまで言うと、『あ、でも……』と口ごもる。その直後の事だ。
――――――――――――チョロチョロ……
液体が水面に落ちる音が聞こえてきたのは。早苗が行っている場所と今聞こえた音とがリンクし、俺は反射的に電話を切った。
もう個室に入ってるなら、先にそう言えよ……。
おかげで聞いちゃいけないものを聞いちまったじゃねぇか。俺が電話をしたのがいけなかったのかもしれないけど。
「ああ……顔があちぃ……」
彼女が帰ってくるまでに、顔に帯びた熱を冷ますため、俺は5冊目へと手を伸ばす。活字を読めば、少しは気持ちも落ち着くだろうという考えだ。
『疎遠だった幼馴染とトイレに閉じ込められたら、何故か惚れられてしまった件について』
ああ……落ち着けるわけねぇ……。
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