第11話 幼馴染ちゃんは俺の貞操を狙いたい
「なんだよ、この体勢は……」
「甘えさせて欲しいんだもん♪」
そう言って微笑む早苗が座っているのは、椅子に座った俺の太ももの上。重さは特に感じないが、いい匂いがしてくるし、画面が見えづらいというのに、彼女と密着しているが故に体を動かすことも出来ない。これももちろん、『親バレはやだよね?』と脅されてやらされている事だ。べ、別に、嬉しいとか思ってないからな?
「じゃあ、始めるね?」
早苗はそう言いながら、机の上のパソコンにゲームをセットする。ウィーンという機械音が鳴り、自動的にゲーム画面に切り替わる。
「あ、あれ?」
俺は反射的に首を傾げた。どんよりとしたBGMと、真っ暗なタイトル画面。これからえっちなゲームが始まるとは思えない雰囲気だ。ただ、ケースには確かに可愛いヒロインと、彼女らと主人公の対話シーンが写っていたはずだ。アマソンでポチッた時は、よく確認もせずに買っちゃったからな……。ゲーム内容は俺もほとんど知らない。
「な、なんか怖いね……」
「スタートボタンを押したら雰囲気が変わるのかもな」
少し震えている早苗を落ち着かせるようにそう言った。タイトル画面と内容のギャップというのは多くの作品で使われている。何も珍しいことじゃないだろう。俺の言葉に、彼女は小さく頷くと、マウスを握り、矢印を『スタート』の文字に合わせる。カチッというクリック音が部屋に響いた。
『あなたの名前を決めてください』
画面上にそう表示された。ノベルゲームだとか、RPGだとよくあるやつだな。
「サナエでいくか?」
「でも、主人公は男の子みたいだよ?アオトの方がいいと思う!」
早苗はゲームの入っていた箱を見ながら言う。まあ、こういうゲームは大体が男主人公だもんな。
「じゃあ、そうするか」
俺はキーボードをタイピングして『アオト』と打ち込んだ。
『本当にその名前でいいですか?』
良心設定だな。間違えた時用に確認を用意してくれてるなんて。俺はすぐに『はい』を押した。
『本当の本当にその名前でいいですか?』
……二度あることは三度あるっていうからな。名前を失敗して、今後のプレイに影響が出るのも、作者にとって嬉しくないことだろう。『はい』っと。
『ファイナルアンサー?』
なぜここでみのさん!?まあ……念には念を、だもんな。『はい』だ。
『私はこの名前、良くないと思いますよ?本当にこれにするんですか?』
私情挟んできやがったよ。何故か俺の名前をバカにされてる……。『はい』だ。さすがにしつこいな。
『あなたはイエスマンなんですか?はいしか押せないんですか?』
…………早くゲーム始めたいな。いや、早苗と一緒だからやりたくないんだけど、ここまでしつこいと逆に早く始まって欲しい。『はい』だ。
『そんなイエスマンなあなたは、女性に先導してもらいたいタイプ。クールで強気な女性がお似合いね♪』
あれ?急に性格診断が始まって……って、あながち間違ってないって言うかドンピシャだな!?次の選択肢に『タイトルに戻る』と『ありがとうございました』しか無いし……。『ありがとうございました』を押してみるか。
『茶番に付き合ってくれてありがとう。では、ゲームを開始します』
お、やっと始まるみたいだ。早苗も待ちくたびれたと言わんばかりにため息をついている。こ、ここから……えっちなのが始まるんだよな……。
ゴクリと唾を飲み込んだ。心の準備はもう出来ている。俺はマウスをクリックした。
……結論から言うと、凄かった。何が凄かったのかって?それはな――――――――。
「これ、ホラーゲームじゃねえか!」
確かに、ゲームの箱に書いてあった女の子達は出てきた。ちょっとえっちなシーンもあった。でも、それ以上にホラー。
学園がゾンビに侵略されるところから始まるこのゲームは、ヒロイン7人と主人公という最後の生き残りが登場する。ヒロインのために体を張る主人公や、好きだったヒロインがゾンビに感染したなどの、いい意味でドキドキするシーンもあって、普通に楽しんでしまった。
ちなみに、18禁になるほどのえっちなシーンは無かった。ゾンビの攻撃で服が破れたりだとか、シャワーシーンだったり、そんな感じだ。
18禁なのはむしろホラー展開の方。ゾンビと戦うシーンなんて、直視できないほどグロかった。久しぶりに恐怖で声上げそうになったな。
「早苗、終わったぞ」
彼女は3分の2くらい終わったところでギブアップしていた。暗い場所やお化けは怖がらない彼女だが、どうやら創作物の怖さは無理だったらしい。
何もしてこないお化けよりも、人間の方が怖い……ということらしいが……。こじらせた人見知りってのは不思議なもんだな。
まあ、とにかくだ、早苗がこのゲームを選んでくれて助かった。本当にえっちなやつだったらヤバかったかもしれないしな。
時間もちょうど12時を回ったところだ。眠っているのか気絶しているのか分からない早苗をベッドに運んでやってから、俺は部屋を出る。一応、早苗のお母さんにも声をかけてから帰るか。そう思って、階段を降りてからリビングを覗く。
「あら、碧斗くん。帰るの?」
「はい、早苗はもう寝てますよ」
「そう、ありがとうね……」
「な、なんですか?」
彼女は俺をじっと見つめてくる。何故か緊張するな。
「碧斗くん、確か彼女さんが出来たのよね?」
「早苗から聞いたんですか?最近出来ました」
偽なんだけどな……。
「私としては、早苗は碧斗くんに貰って欲しかったのだけれど……」
彼女は悩ましげな表情で、右頬に手を当ててため息をつく。
「私も、碧斗くんのことは信頼してるの。大事な娘を預けられるのはあなたしかいないと思ってる。だからね、碧斗くん」
俺の肩に手を置き、真っ直ぐに見つめてくる。
「あの子のハジメテを貰う権利を、あなたにあげます♪」
「何言ってんですか!?」
俺は反射的にその手を払っていた。まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。
「碧斗くんとあの子、相性いいと思うのよ。1回でいいから……ね?」
「その1回が命取りなんですよ!し、失礼しますからね!」
俺は逃げるように小森家を飛び出した。そしてそのまま隣の自分家に駆け込み、鍵を閉め、自分の部屋のベッドに飛び込む。
「なんかよくわかんないけど、幼馴染の母親から許可出ちまったよ……」
俺は少しずつ、彼女を異性として意識し始めている自分がいることに気付き始めていた。もしも、あのままずっと笹倉の気持ちが変わらなかったら……俺は多分、いつかは早苗に傾いてしまうと思う。でも、そこにも大きな問題があるんだよな……。
「千鶴の好きな人を盗るなんて、出来るわけないだろ……」
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