第3話 兄貴ぶりたいお年頃
「…ってことになるわけ」
「なるほどなるほど」
「ん、そう。だからここは…」
僕はネールさんにコネクターについて色々教えてもらっていた。もう何年も前にネールさんを師として仰いできて教えを受けていたがまだまだ知らないことはたくさんあるようだ。
ちなみに僕がレイと一緒に大ミミズと対峙した時に使った『看破の眼』を作ったのもこのネールさんだ。
『看破の眼』はコネクターを内包した魔物の生体情報を映し出すという水晶型の道具だ。
昔、ネールさんが所属していたという研究所での技術を応用した物で簡易版は流通しているがこのレベルで情報を抜き取ることが出来るものは他にないと言っていいだろう。
お気づきだろうがネールさんは超がつくほどの天才なのだ。
そんな天才が研究所を抜けてこのギルドに入った経緯は僕は知らないが何でも昔色々あったらしい。聞いてみても渋い顔をして何も答えてくれないのだ。そんなに聞かれたくないものなのであるならば僕としても首を突っ込みすぎるのは良くないと判断しそれ以降話に出さないようにしている。
コンコン
ドアからノックの音が鳴り響く。
「はーい、今開けます」
扉を開けるとそこにはレイがいた。
「あ、ラノ。もういい時間よ。いい加減お風呂とか入ってきたら?今日はバタバタしてたんだし汗流してきなさいよ」
「そうだね。ありがとレイ」
確かにレイの言う通りだ。ネールさんとの話に夢中になりすぎて窓から見た空は少し暗みがかっている。
「じゃあ、僕はもう行きます。ありがとうございました。ネールさん」
「うん、でしにしどうしてあげるのもししょうのつとめ。それにおもしろいこともわかってこちらとしてもいいじかんだったよ」
「ふふ、そう言って貰えると嬉しいです。ではまた!」
「うん、じゃね」
別れの挨拶をすませ僕は船内の共同風呂場へ向かう。
「あー、ちょっとベタベタしてるな気持ち悪い。コネクターに夢中になりすぎるのもどうにかしないとな」
なんて事を口には出してみるがコネクター優先の未来が容易く見える。まあ、ストッパーはレイに任せるとしましょう。
「今日のお風呂はどんなのかな?」
グロウスピリットのお風呂はこだわりが強い。マスターが大の風呂好きということもあり日替わりで入浴剤が変わる。そんなこともあって僕はお風呂が好きだ。こんな楽しみ方を教えたくれたマスターには感謝しないとね。
「お、今日はゆずが浮いてるね。この匂い好きなんだよな」
ギルドメンバーの故郷ではとある時期にゆずをお風呂に浮かべる風習があるらしくグロウスピリットでもそれを採用している。といっても時期は気にせず好きな時に浮かべているだけだが。
「良し、ちゃちゃっと洗って入っちゃおう」
今日はゆずの香りに包まれてゆっくり出来そうだ。
「はぁ、いい湯だったぁ」
ゆず風呂の余韻に浸りながら僕はコーヒー牛乳を飲み干す。これもとある国でのシステムで風呂屋には必ずといっていいほど牛乳が設置されており誰もが腰に手を当て牛乳を一気に飲み干すのだ。
「ぷはぁ、やっぱりお風呂上がりはこれだよね」
上機嫌になりついつい独り言が増えてしまう。あぁ、平和って素敵ですね。
「ご飯まではまだ早いしどうしよっかな?」
グロウスピリットにはギルドメンバーだけが利用できる食堂がある。使える時間が決まっていてその間に各々が食事を済ませるといった具合だ。まだその時間にもなっていないので手持ち無沙汰になってしまった。
「コネクターの手入れでもしよう」
僕は自室へと戻ることに決めた。
グロウスピリットには現在およそ40人のメンバーがいる。マスター、リアーナさん、ミカさんといったギルドの主要メンバーと少し下の世代に入る者達が15人。そして僕やレイくらいの世代が5人。あとのメンバーは全て年端もいかない子供たちだ。
グロウスピリットのメンバーは全員がマスターや主要メンバーに拾われた者たちとなっている。元々はその主要メンバー達は旅のパーティとして結成されたのがグロウスピリットである。お人好しなメンバーが多かったために今のギルドへと変わっていったのだ。
拾われた者たち、ということで何かと訳ありな者が多い。親に捨てられた者。村がなくなった者。浮浪者。はたまたパーティを襲った盗賊なんて人もいる。僕もそのうちの一人だ。
僕が暮らしていた村は昔、何者かに襲われ壊滅させられた。僕が近くの山に遊びに行っていた時のことだった。村に近づくと木々の燃える臭いがする。嫌な予感がして全速力で村へと走った僕だったがその予感は的中してしまった。誰が何のためにやったのか、何も分からず途方にくれ、ただ泣くことしか出来なかった僕を優しく抱き抱えてくれたのがリアーナさんだった。今から10年前のことだ。
もう自分の親の顔も覚えていない。だけと悲しいと思ったことはない。今の僕にはグロウスピリットというまた新たな家族がいるのだから。
「おーい、ラノー!」
自室に向かっていると僕を呼ぶ声がした。
「ん?どうしたの?エク」
「いや、ラノが見えたから呼んでみただけー。何してんの?」
「これから部屋に戻ってコネクターの手入れするところだよ」
「ふーん、あ、俺も着いてっていい?」
「うん、いいよおいで」
「よっしゃ!」
この子はエクトル。元々はスラム街の孤児院にいた子供だ。その孤児院は経営難で潰れてしまったところをお人好しなマスターが子供たちを全員連れてきたのだ。
エクトルはその孤児院のリーダー的存在で、一番年上でもあった。最初は警戒心むき出しで中々苦労したものだが今ではすっかり打ち解けて仲良くしている。
「なあ、ラノ。早く俺にもコネクター貰えないかな」
「コネクターかぁ。確かにコネクターは強い力を持っていて身を守るのに最適だけど危険なものなんだ。使い方を間違えれば自分が傷つくしもしかしたら周りの子にも被害が及ぶかもしれない。だからまだ早いかなって僕は思ってる。」
「ちぇっ、まあしょうがねえか」
「エクは皆のお兄ちゃんみたいなものだからね皆を守りたいって気持ちが強いのはいい事だよ。」
言いながらエクトルの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「や、やめろよ。そんなんじゃねえし」
「ふふ、はいはいそういうことにしておくよ」
「ちくしょう兄貴ぶりやがって」
「年上としてかっこつけさせてよね。さっきはああ言ったけど時期が来たら僕からもマスターにコネクターを持たせられないか聞いてみるよ」
「お、サンキューラノの兄貴!」
「調子いいなぁもう」
二人で笑いながら僕の部屋へと向かう。初めてあった時には見ることの出来なかった素敵な笑顔。僕はこの子達を悲しませないようにと心に固く誓ったのだった。
…。でも僕弱いんだよなぁ。はぁ
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