第2話 飛行ギルドグロウスピリット
「ただいまニゲラさん」
「おつかれさん2人とも」
ギルドに帰ってきた僕らを出迎えてくれたのはグロウスピリットの初期メンバーで鍛冶師のニゲラさんだ。
「頼まれたもの買ってきたわよニゲラ」
そう言ってレイはニゲラさんに荷物を渡した。
「おー、サンキュー助かるぜ。こいつがなきゃ始まんねえからな」
渋い声と顔立ちに似合わないその小さな背丈を存分に活用しニゲラさんは喜びを表現する。
「そんなに喜んで貰えるなら買ってきた甲斐がありますよ」
「がはは、いやいやほんとにありがとよこいつでまたお前たちの装備を整備してやっからよ」
ニゲラさんは荷物の中から金槌を取り出して素振りをする。
なんでも、なんとかっていう有名な鍛冶師がプロデュースする鍛治道具らしいのだ。
流通も広く行われているわけではないらしく行く街行く街で探しついに見つけたのでこの喜びも無理もないのかもしれない。
「そういえばラノ。ネールのやつがお前のことを呼んでたぞ」
「ネールさんがですか?どうしたんだろう」
「何でも例の遺跡から出た謎のコネクターについてらしいぞ」
「え!何か分かったんですか?」
「さあな俺はその辺のことはいまいち分からん。詳しくはネールにな」
「はい!分かりましたありがとうございます」
「おうよ、相変わらずあいつは研究室に閉じこもってるからな」
「了解です」
こうしちゃいられない。早いところネールさんの所に行かなくちゃ。
「じゃあラノ、私はシャワー浴びてくるからまたなにかあったら呼んで」
「わかったじゃあね」
「うん」
レイに別れを告げ僕は気持ち早足になりながら研究室に向かう。
「ハルおかえり。あたしと一緒にご飯食べる?」
「ミカさんただいまです。ごめんなさいちょっとネールさんに呼ばれてるので!」
「あら、残念。じゃあまた後で食べよっか」
「はい!ありがとうございます」
「うふふ、いいわよじゃあね」
この人はミカさん。ニゲラさんと同じグロウスピリットの初期メンバー。普段は自由気ままなにすごしてるけどいざという時は頼りになるギルドのお姉さん的存在だ。
「ふう、やっぱりミカさんと話すとドキドキするな」
これはもうしょうがないことだ。なんて言ったってミカさんはエロい。何がエロいとかじゃなくてもう存在がエロい。雰囲気がエロい。このエロさに慣れることはないだろう。
「ってそんなこと考えてる暇はない。急ごう!」
気持ち早足くらいだったのにテンションが上がってついつい僕は走り出していた。
そして勢いあまり何かにぶつかってしまうった。
「いたたた」
「こら、ラノ。ギルド内で走らない。危ないだろ」
「わ!ごめんなさいリアーナさん。って帰ってきてたんですね!」
ぶつかってしまった人はリアーナさん。
彼女もまた初期メンバーの1人でギルド最強の一角でもある。
「うん、長期クエストも終わってな。マスターに報告しに来たんだ」
「そうだったんですね。でもマスターは連盟に呼ばれてて今日は帰ってこないですよ」
「ああ、そうらしいな。全くタイミングの悪い時に帰ってきてしまったものだ」
「でもその分まだギルドにいれるんですよね?だったら僕は嬉しいです!」
「ふふ、そうだな。マスターに次のクエスト言い渡されるまではいるよ」
「やった!またお話いっぱい聞かせてください」
「ああ、分かったよ。それより何か急いでたのではないのか?」
「そうでした。ネールさんに呼ばれてて」
「なら行っておいで。まあ、あいつの事だから遅れても気にしないだろうがな」
「ははは、そうかもですね。じゃあ行ってきますね」
「行ってらっしゃい」
リアーナさんとも別れて僕はあらためてネールさんの元へ向かう。いくら研究以外に無頓着なあの人でももたもた行かれたら気分は良くないだろう。
「おーい、リアーナ。顔のニヤケが留まるところを知らないぞ」
「む、ミカか。一体何のことだ。いいがかりはやめてくれ」
「あはは、いいがかりなんかじゃないわよ。まあ、長年の付き合いのあたしくらいじゃないと分からない変化だったけどね」
そう言ってみたけどリアーナは分かりやすいタイプだと思う。しっかり彼女を見ていれば微妙な変化なんて一目瞭然だ。
「相変わらずラノや子供たち相手だとちょっとかたいっていうか、ぎこちないというか。その割に優しさが滲み出てるし見てて笑っちゃうわよ」
「しょうがないでしょ。子供たちは私のことを過大評価しすぎなの。だからつい口調が変になっちゃって」
「あら、戻ってきたわね。ギルド最強の一角から可愛らしいリアーナちゃんに」
「可愛らしいはやめて。そんな歳でもないんだから」
「そう?そんなことないと思うけど」
ふふ、やっぱりリアーナを弄るのは楽しいわね。
「いや、やめてお願いだから。そんなことよりラノの調子はどう?」
「ん?そうね、最近はチビちゃん達の面倒を積極的に見てくれてるし結構信頼もあるみたいよ。同年代の子達とも上手くやってるみたいだし、特に心配することはないかな?あ、でも相変わらずあの子は非力というか戦闘能力はちょっと低めかな。時間がある時にでも特訓でもしてあげたら?」
「元気でやっているなら安心ね。特訓か、あの子がやる気あるみたいなら考えてみてもいいかもね」
「…。ねえ、リアーナ。あなたこのままでいいの?あの子はあなたの…。」
「いいのよ。今のままで、私はあの子が幸せでいられるのなら」
「でも、あなたは?」
「私はこれでいいの。私はあの子の生きる道の邪魔になりたくないし誰にも邪魔をさせない。だからこれくらいの距離感がちょうどいい。あの子はあの子。あの子にとって私はギルドの凄い人くらいでいいんだよ」
言いながら彼女は徐々に仮面を被っていく。
ただのリアーナの顔の上にグロウスピリット最強の女という仮面を。
彼女ははつい口調が変わってしまうと言っていた。でも本当は心の中でそうあることを望んでいるように見える。無意識の中で自分はこうあるべきだと、この姿をあの子に見せるべきだと思ってしまっている。
それがあたしはなんだか悲しくて、でもそれが彼女の選ぶ道ならその道を肯定してあげることしか今のあたしには出来ないのだ。
リアーナさんにぶつかってしまったな。
確かに僕は少し浮かれていたみたいだ。
コネクターに夢中になって周りが見えていないなんてまさにうちの師匠みたいなものだ。
なんてことを考えていたら研究室の前にたどり着いた。
コンコン
「ネールさん。ラノです。入りますよー」
「あ、ちょっとまって」
ドガァァン!!
「わっ!ちょっ!何やってるんですか!?」
「む、わたしはまってっていったはず」
「いや、そんなすぐに反応出来るわけないですよ」
「そんなことしらない。あきらめはけんきゅうしゃにとっていちばんのてき」
そう、この何考えているか分からない見た目幼女が僕の師匠ネールさんだ。
口癖はさっきの「あきらめは研究者にとって一番の敵」と「面白そうだったからやった」だ。
「それで結局何してるんですか?」
「ん、これ。まえのいせきからでたコネクター。いろいろじっけんしてた。」
「それでなんで爆発が起きてるんですか?」
「このコネクター。まえにもいったとおりプラグがない。だけどこれをコネクターたらしめるちからがかくじつにそなわっている。そのちからをひきだすためとおもしろそうだからばくはしてみた」
ほら出た。おもしろそうだから
ちなみにプラグっていうのはポートに挿す棒部分のことだ。
「じっさいラノはいいリアクションしてた。ぐー」
そう言いながらサムズアップするネールさん。この人が男で大人で師匠じゃなかったら手が出てたところだ。
「なら、ラノはわたしをいっしょうなぐれない」
「ナチュラルに心を読まないでください。それで分かったことっていうのはなんですか?」
「うん、まずしょきだんかいでわかっていたことってなんだったかおぼえてる?」
「えと、さっき言ってたプラグがないけどコネクターたらしめる力があるってこととその力っていうのが未だ未知なるものであるっていうことでほとんど何も分かっていないって話ですよね」
「うん、そう。いってしまえばわからないことがわかったってことぐらいだった」
そういうネールさんはの目は新しいおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせている。ネールさんだけでなく研究者にとって未知とは歩むべき道であり壁でもあるのだ。それを既知という基地を用いて越えていくそれが研究者の在り方だと昔の偉い人が言葉を残している。ダジャレ好きすぎでしょ昔の偉い人。
「あらたにわかったことはみちのちからについて。みてて」
ネールさんは謎のコネクターの近くに手を置いた。このコネクター見た目は小さな石のような色、形をしていてその辺に転がっていれば目もくれることなく素通りしてしまいそうだが遺跡では幻想的な空間に祀られているかのように置かれていたらしい。というのも僕はその遺跡調査には着いていっておらずレイに後から話を聞いたのだが。
僕ももう少し強くならなきゃな。
「ラノ、こっちにしゅうちゅうして」
「は、はいすいません」
僕のことは後回しだ。今は謎のコネクターに…。
「え、動いてる?」
そう、動いていた。生物でもないただの無機物のはずなのに確かにそのコネクターは動いていた。正確にはネールさんに引き寄せられるように。
「そう、このコネクターはうごく。ほかのひとでもためしてみたけどこじんさがある。わたしのほかにけんきゅうしつのこもためしたりニゲラにもきょうりょくしてもらったけどわたしがてをおいたときがいちばんうごいた。なにかのちからにひきよせられるみたいなそんなかんじ」
「一体何が起こってるんですか?」
「そこまではまだわからない。でもこんなことははじめてでラノもきょうみあるでしょ?」
「はい!もちろんですよ!どうしてですかね?引き寄せられるってことはこのコネクターは何かを求めているとか。それをネールさんが一番持っているってことなのかな?それとも…」
ブツブツと独り言を重ねる。
「ふふ、やっぱりラノはわたしのでし。ラノもてをおいてみたら?いちどけいけんしてみるのもいいかも」
そう言われて一度思考を停止させる。確かにやれることは何でもやってみなければ。
「はい、それじゃあ」
さっきまでネールさんの手が置かれていた場所に僕の手が重なる。すると
「っ!」
謎のコネクターは一瞬強い光を放ち僕の手に勢いよく飛び込んできた。
「ど、どういうことですか!?」
「…。わからない。こんなはんのうはじめてだった。せいぜいひきよせるていどだったのにひかるなんて。」
謎がさらに謎を呼ぶとはこのことで意味がわからず頭がパンクしてしまいそうだ。それでも研究室の鏡にうつる僕の顔は目の前の師匠のように輝きを放っていた。
コネクターからの光が収まり僕とネールさんは落ち着きを取り戻した。
「それはラノがもってて」
「良いんですか?研究材料なのに」
「まあ、たしかにそうだけどいせきからのしゅつどひんはまだまだたくさんある。それをほんかくてきにしらべるのもあとからでいいとおもうし、それにハルとそのコネクターをちかくにおいておけばおもしろいものがみれるかもしれない」
「分かりました。僕が個人的に調べるのは大丈夫ですか?」
「しかたないけどいいよ。でもおもしろそうなじっけんをするならわたしをよぶこと」
「はい、分かってますよ師匠」
「うん、ならよろしいでしよ」
二人で笑い合いながら他の研究成果についても話を進める。この人の弟子で良かったなとあらためて思える、そんな彼女の笑顔を見ながら。
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