ノリノリですよエルフさん
――ハロウィンコスプレコンテスト。
きっかけは、文化祭にコスプレがしたいという欲望にまみれた一人の女子があげた声だったらしい。
時期的にハロウィンが近い事もあり、文化祭にハロウィンとコスプレをくっつけて、見事イベント化に成功したという。
コスプレ参加者は、回を重ねるごとに増えていき、昨年も結構盛り上がった。優勝者には、学校近くの商店街で使える商品券がもらえるらしい。コンテスト中、随所に商店街PRが挟まれるのは、どうやらスポンサーになっているらしい。この仕組みは第一回目からだそうで、はじまりの女子の商才が凄い。
「ステージ後ろの背景が青と白の壁なのが、すごい既視感があるな……」
「お前もか、太田……」
何やらどうでもいい会話を菊池と太田がしている。僕は既視感なんて感じないけどなあ。いやあ、意味わかんない。
「そろそろ始まりそう」
「いよいよか。あ、弓塚教室に置いていた例のヤツ持ってきたぞ」
「ありがとう、太田」
太田から、今朝持ってきていた袋を受け取る。と、同時に賑やかなBGMが始まった。校庭に作られたかなり大きめなステージに、二人の女子生徒があがってくる。
『さー、いよいよ始まります! 毎年可愛いコスプレ見たいがために、最前列に待機している野郎ども! 喜べ今年も豊作の年だ!』
元気な声でなかなかにひどい内容を叫んでいるのは、いつも昼休みにスピーカーから流れている聞きなれた声だった。
「今年も司会は放送部なんだな」
「えりえりか。あの子の声、本当にヤバいよな。可愛いすぎる」
『司会は、放送部二年! 毎日お昼に放送してます鈴木ちえりと!』
「もう一人は……あれ? 遠藤さん!?」
ステージを見ていた僕は、いつもの無表情な顔でマイクを握っている遠藤さんの姿を見て驚いた。
『……遠藤塔子です』
『遠藤ちゃん! いきなりテンション低いのはびっくりだよ! もうちょっと、高くいこう!?』
『鈴木のテンションが高すぎてウザイと思っている遠藤ですキャッホー』
『雑な言い方でディスられた! 急に司会やりたいって言ってきたのに扱いがひどい!』
『私が助っ人に入らなかったら、今の時間にイベント開始が間に合っていたのかは疑問』
『ちょ……! それ言っちゃダメなやつ……! あ、えとえと、何も問題なかったですヨー。人手足りなくて準備間に合わなかったかもとか全然ありませんでしたヨー』
鈴木さんが遠藤さんの肩掴んで揺さぶりながら、ステージ前の僕達に向かって誤魔化し笑いをする。
「遠藤に司会を頼んだのは、万が一の時に動きやすくするためだ」
遅れてきた倉田が、台詞とともに現れた。
「ある程度コンテストをコントロールできれば対処しやすいからな」
『コンテストを始める前に、毎年恒例の注意事項を伝達する。特に一年生は気を付けて聞いてほしい』
遠藤さんのマイクを通じて聞こえてくる。
『多くはないからキチンと聞いて。一つ目、出場者への過度な煽りやヤジは禁止。二つ目、ステージには勝手に上がらない事。出場者との演出であればその限りではないけど無関係な人は禁止。三つ目、カメラやスマホでの撮影録音は禁止』
ここで、「えー」という何人かの声があがる。
『何年か前に、女子生徒のコスプレ画像が無断でインターネットで拡散されてしまった事がある。その女子生徒は、一時登校ができなくなるほど迷惑を被った。同じことが起きれば、このコンテスト自体の中止の可能性も出てくる。協力してほしい。出場者が許可するのであれば、コンテスト後に個別に楽しんでもらえればいい』
遠藤さんの説明に、不満げだった一年生も納得した様子をみせた。二年生以上の生徒は、分かっていたことなので問題ない。というか、遠藤さんが言っている内容は、江藤さんのトラブル対策としても有用な事だった。
「これらの注意事項は、コンテストが始まる前に強調したかった。司会がきちんと説明するかは不明だったからな。こちらから説明できるのであれば、それにこしたことはない」
「だから遠藤さんに?」
「ああ、人前に出て話すのは苦手だと嫌がられたが。何とか了承してくれた」
『はい、そういう事なので! ステージ前のみんなお行儀よくヨロシクね!』
『本当は鈴木が説明すべき事だった。本番前に覚えさせることができなくて無念。間に合わなかった。驚くべき記憶力』
『そういう楽屋裏的なネタは暴露しなくていいから、もー!』
人前で話すのが苦手……ノリノリで鈴木さんをいじってますが。
『あー後で部長に怒られる……絶対怒られる……』
『鈴木、遊んでないで司会は進行するのが仕事』
『遠藤ちゃんには言われたくないんだけど!? もー! じゃあ、なし崩し的にはじめちゃいます! みんな、一緒に叫んでね! ハロウィーン、コスプレ!』
「コンテストー!!」
ステージが震えると錯覚するほどのコールが木霊する。同時にBGMの音量も上がり、みんなのテンションも上がる。
そうしてコンテストが始まった。
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