即答ですエルフさん
文化祭二日目の朝。
目覚まし時計の音が鳴り響く中、僕はぼんやりと覚醒した。
「眠い……」
昨晩、夜遅くまで自宅庭に設置してある物置小屋を捜索していたつけが祟ったのか。目覚まし時計に裏手を喰らわせて停止させつつ、起き上がる。
「結局、まさか屋根裏部屋にあったとは……誰だよ、あんな所に置いていたの」
探し物は、物置小屋のガラクタをすべて外に出し尽くしてもなお見つからず、もしやと思って一応見に行った屋根裏部屋の一番目立つところで見つかった。
その時の時刻が、午前三時。
膝から崩れ落ちた僕である。
「まあ、あれ使うのは僕だけだし……僕が置いたんだろうなあ」
おのれ僕め。
見つかった探し物は、机の上に置いてある。僕は、しばらくそれを眺めていたけど、目覚まし時計の時間を確認すると、大きく伸びをした。
そろそろ起きて、学校行かないと。
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
いつもより早めに家を出た僕は、大きな袋を片手にキョロキョロと周りを窺いながら歩いていた。
完全に不審人物なんだけどしょうがない。
なるべく江藤さんに見つからないようにしないと……。
「おはようございます! 弓塚君!」
はい、無理でした。
今朝もエルフイオンを振りまく江藤さんの笑顔に、先ほどまで感じていた眠気がすっかり吹っ飛んだ。江藤さんが五メートル以内にいるのならば、二十四時間眠らなくても平気に違いない。
「昨日はごめんね、弓塚君。一緒に帰れなくてって何背中に隠してるんですか弓塚君」
エルフアイがするどい。
「いや、別に隠してないよ」
「いや、思い切り隠してますよね?」
首を傾げながら背中に回ろうとする江藤さんから、背中の荷物を守るために僕も江藤さんの背中を追う。ぐるぐる。
「何で隠すんですか!」
「何で見ようとするの!?」
「私気になります!」
なるほど、「える」だけに……って、どれはどうでも良くて。
「メイド衣装の小道具だよ、もしかしたら使うかなって」
背中の袋を見せると、江藤さんはようやく回るのをやめた。僕の隣に並びながら、歩き出す。
「あれ、弓塚君今日は出番じゃないですよね?」
「うん、でも倉田が出番がない男子もメイド服は着用だって言ってた。外に出てる時も宣伝だって」
「はー、大変ですねえ」
よし、江藤さんの興味も薄れたな。僕は、さりげなく背中に戻した荷物を片手に、内心ほっと息をついた。
「そういえば今日はどこまわろうか? 江藤さん的に行きたいところってある?」
文化祭二日目は、江藤さんと自由行動になっている。
昨日はあまりに忙しくて文化祭で何処がどんな事をやっているのかの情報もなく、江藤さんと今日の予定を話す事も出来なかった。
「えーと、何か食べもの屋さんがあったら食べてみたいです!」
「たこ焼きとか焼きそばとかあったらいいなあ」
まあ、鉄板メニューなので、どちらかはあるに違いない。
「お好み焼きもあったら嬉しいんだけど……」
しまった。マイマヨネーズを持ってきていない。たくさんマヨネーズかけたお好み焼きがベストなのに。もしもの時のために、いったん家に帰って持ってくるか? いや、もしかしたら真木さんが常備してるかも。そうに違いない。
なんて、果てしなくどうでもいい事を考えていると、江藤さんが僕の袖をくいくいと引っ張った。
「ん? 江藤さん、どうかした?」
「……う、うん、ちょっと待ってね」
江藤さんは「すーはー」と大きく深呼吸してムンと気合を入れると、僕の両手をギュッと掴んできた。ギュッと。
「あの! あのね弓塚君! ひとつだけ絶対に行きたいところがあるんです! 一緒にいいですか!」
耳を真っ赤にしながらそう叫ぶ江藤さんの声はとても必死で、もしかしたら断られるかもという不安がそこにはあった。
江藤さんがお勧めする何か。例え、それがどういうものか知らなくったって、僕の答えはいつだって即答だ。
「もちろん。一緒にいこうよ、江藤さん」
「……! あ、ありがとう!」
ぱぁっと明るくなる江藤さんの表情に癒されながら、僕はこっそりと呟く。
「まあ、何かは知ってるんだけど」
それと、背中の荷物。もしもの時のために持ってきたけど……使わなければいいなあ。
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