キャッキャウフフですエルフさん
「ねー見て見て、これ可愛くない?」
「やーん、ちょっとヤバイくらい可愛い! どうしたの、それ!」
「へへー、姉さんに頼んでちょっとフリル増し増しにしてもらったの! うちの姉さん裁縫系女子だから」
「えーいいなあアタシもそのスカート履いてみたーい」
「あ、アタシもアタシもー」
「じゃあ、これも一緒につけてみる? ちょっと徹夜で編んでみたんだけど」
「え、これってカチューシャ? 編めるものなの?」
「すっごいかわいいー!」
「超つけたーい!」
「ねー!」
「じゃあ、ついでにこれもつけちゃう? 猫耳カチューシャするとヤバくない?」
「やばーい!」
「かわいー!」
「やーんやーん!」
「あんたらー!!」
真木さんが、ガラッと教室の扉を開けて叫んだ。
「気持ち悪いから! 勘弁して!」
「ええー」「せっかく可愛くしてたのにー」「ほんとねー」「気持ち悪いって失礼しちゃうー」「ぷんぷん」
以上冒頭からのキャッキャウフフな
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
今日の放課後は、そろそろ近づきつつある文化祭の衣装合わせだ。
遠藤さん達女性陣が、色々な伝手を使って、男子全員分のメイド衣装を用意してくれた。さすがに、男子が大量のメイド服を購入しに行くとか、完全に社会的抹殺行為となるので女性陣には頭が上がらない。というか、どこからメイド衣装を調達できたのだろう。謎の手腕である。
男子全員のサイズを確認し購入はしているものの、もちろん体形は個人差がある。当初は、多少サイズがきつかったりゆるかったりしても仕方ないという雰囲気だったのであるが、一部女性陣の「せっかくのメイド喫茶なんだから手抜きはしたくない」「むしろ、至高を目指すべき」「体形に合わせたぴったりのメイド服じゃないと尊さがない」などの意見により、試着をすることになったのだ。ここで修正が必要な男子は裁縫が得意な女子の手により、より完全体のメイドとなることができるのである。
というか、完全を目指すのならば「メイド(男子)」という概念そのものを否定すべきでは? と思ったけど、女性陣に僕そのものの存在を否定されそうだから止めた。いのちだいじに。
で、何だかんだとノリがいい男子勢は、どうせやるんだったらと当初の江藤さんのメイド姿を見ることができなくなった絶望を乗り越え、むしろ俺達のメイド姿を見るがよいという野望に満ち溢れることになった。
池上は、大学生の姉から化粧の手ほどきを受け、今回限りの化粧セット一式を自腹で購入したらしい。本気が
「あたしー、ちょっとお散歩してくるー」
と言って、池上が衣装の試着テストがてら教室の外に出てしばらく、他のクラスの女性たちの「きゃーーー!」という黄色い歓声が聞こえてきた。
「さすが池上」「殺意が零れ落ちそう」「イケメンが本気出すと、社会的に悪影響が出るな」
などと着てみたメイド服の調子を見ながら話していると、隣の太田が不満そうに腕を組んだ。
「ふん、あいつばかりモテやがって、じゃない、おモテになりやがって」
「太田、言葉遣いあんまし変わってないぞ」
「あたしの方が美しいって分からせてやるわ」
「野太い野太い」
太田は、小学生の妹から化粧の手ほどきを受け、母親の口紅をこっそりと持ち出していた。本気が空回っている。野球部で鍛えた大柄な筋肉の塊が本気を出して女装した結果、国一つ滅ぼせそうな奇形冥土が誕生していた。
「あたしー、ちょっとお散歩してくるー」
と言って、太田が衣装の試着テストがてら教室の外に出てしばらく、他のクラスの女性たちの「きゃーーー!」という切羽詰まった悲鳴が聞こえてきた。
「さすが太田」「涙が零れ落ちそう」「ゴリラが本気出すと、社会的に悪影響が出るな」
「というか、あの塗りたくった口紅は妹さんが教えたのか。あれ絶対、面白がって教えてるよね……」
僕の呟きは、次々と遠くから聞こえてくる悲鳴にかき消されていくのだった。
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
「意外と似合いますね、弓塚君」
「はっはっは、もっと褒めていいよ、江藤さん」
「全然、女装に動じてません……」
本番前に恥をかき捨ててぶん投げろ、という倉田の命令により、男子全員一人ずつ校舎を周回することになった。
フォロー役で女子もついていくのだが、割と男子全員楽しんでいた。みんなメンタル強いです。
江藤さんと学校の中を歩いていく。まだ文化祭には余裕があるのだが、放課後の教室のあちこちで文化祭の準備が始まっていた。
「みなさん、楽しそうですねー」
「うちの文化祭って、凝り性が多いからね。準備も早めにする人が多いみたい」
演劇をするのだろうか、廊下で舞台装置を作っている脇を通り過ぎる。わー、と江藤さんが感心したように眺めている。
「ほらほら、江藤さん、チラシ配るのも忘れないでね」
「あ、うん。えーと、私たちのクラスでおこなうメイド喫茶ですーよろしくお願いしますー」
通りがかりの生徒に、チラシを配っていく僕達。
「せっかく外に行くのだから宣伝もしてこい。チラシ配り終わるまで帰ってくるな」という倉田のお達しである。ちなみに、メイド姿で眼鏡くいっのポーズしてた。
「まだまだチラシありますねー」
「ゆっくり配っていこうか」
「はーい」
てくてくと廊下を練り歩く。時々、僕の姿を見て「お、メイド?」と言いつつ近づいてきた男子生徒がメイド(男子)というのに気づいて「げ」と声を出す。失礼しちゃう。ぷんぷん。
「あ、カボチャです」
江藤さんが、廊下に貼ってあったチラシを見て足を止めた。
「ハロウィンコスプレコンテスト……?」
「ああ、これ時期的に近いもんだから、強引に文化祭でやってるんだよ。えーとね、なんて言ったらいいかな、仮装大会だね。色々な衣装を着るんだよ。漫画やアニメのキャラクターだったり、ゾンビとか妖精とかのファンタジーに出てきそうなのに化けるんだ」
「へー」
「コンテストだから、誰が一番うまく衣装が着れたか決めるんだ。優勝したら、その衣装で皆の前で表彰されるよ」
「ふわぁ、恥ずかしそうです……」
江藤さんが、想像したのか両頬を手で隠す。
「とにかく、文化祭当日はいろんな催しがあるからね。メイド喫茶の休憩時間は、いっしょに色々見て回ろうか」
「はい!」
江藤さんが、楽しみですーと笑いながら、手に持ったチラシをパタパタした。パタパタ可愛いかった。
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