似合ってますよエルフさん
ピカーっと眩しい光が、近くの電柱の影から発せられた。
最近、用意しているサングラスがいい仕事をしてくれるお陰で僕に影響はない。今は、朝の登校中。幸い、人通りが途切れたところで、このタイミングを狙って僕が江藤さんに話しかけた直後だ。
もちろん、話の内容は例の『長耳になってますよ』アピールだ。僕の挨拶に反応してピクピク動く笹の葉のような長耳がとっても可愛くて、もうこれは江藤さんの横顔だけで写真集作るべきではと思ったのだけど、まあ朝が弱い江藤さんが寝ぼけて魔法かけ忘れてるのを教えるのも僕の役目なので残念だけどいつものように『丸耳』になってもらうことにした。非常に残念。
ちなみに、今日のアピール方法は『耳たぶって赤ちゃんのほっぺの柔らかさだよね』だった。耳たぶをひっぱっているうちに魔法のかけ忘れに気付いた江藤さんの「……あ、あー、そういえばー、ちょっと前髪のセットがうまくいってないですー」と言いながら、スススーって電柱の影に隠れていくその仕草がとってもプリティエルフだった。許せる。
サングラスを江藤さんに気付かれないうちに戻す。ふうと息をつきながら、僕に近づいてくる江藤さん。
「えーと、ま、前髪どうですか? 変じゃない?」
金髪をつまんで、えへへと笑いながら江藤さんが言う。うん、その誤魔化しかた最強だよね。最強に可愛い。最カワ。
「変じゃないよ、バッチリ」
「よかったー。あ、そういえば、この前弓塚君が貸してくれた漫画がね」
真木さんのお弁当効果か、転校初期の頃よりも、朝の調子はよくなっているそうな。欠伸もそんなに出ないんだって。「ふわぁ」が少なくなるのは残念だけど、さすが真木さんのお弁当、健康に留意している。
「でね、ちょうどいいところで終わってるのが残念だった」
「その漫画、もうそろそろ続きが単行本になると思うよ」
「え、本当ですか? 楽しみです」
学校につくまで、僕たちは他愛もない会話を続けた。
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
「エルちゃんの金髪今日もサラサラしてるー」
三限目後の休み時間、席に座った江藤さんの髪の毛を近くの女子達が「綺麗―」「天使のわっかができてるー」と言いながら触っていた。
僕は、隣が気になりながらもノートを書く手は休まない。ええい、担任め、なんで今日も板書の文字が多いんだ。途中で早弁してたのが原因な気もするが気のせいだし、仕方ない。江藤さんは、授業中に「まったくもう」とため息ついてた。
あーもうちょっとで書き終わる。あ! ちょっと消すの待った! まだ早い! お願いプリーズ!
黒板消しもった女子が「はよ書け」と急かしてくる。
ええい、仕方ない、後で「この文字なんて読むん?」と言いそうなぐらいの書き殴りの文字でとにかく書いてしまおう。
なんとか書き終わり、黒板が綺麗になっていくのを見ながら、書き疲れた右手をブラブラさせていると、宮原さんが声をかけてきた。
「ねえねえ、弓塚弓塚。見て見て」
なんだろうと思って右手ブラブラさせながら横を向く。向いた瞬間、右手が止まった。
「……おお………」
かすれた声が漏れる。そこには、ちょっと照れた表情のツインテールエルフが爆誕していた。いつもは背中ぐらいの長さの髪をストレートにしている江藤さんが、可愛さマックスあざといツインテールにするなんてステータス表示の『可愛さ』パラメーターが桁数表示をバグらせてしまうじゃないか!
(保存)(保存)(保存)(保存)(保存)(バックアップ班! 今日の写真フォルダは限界までいくぞ! 放課後、追加のハードディスクを買いに行く!)(了解)(了解)(了解)
クラスメイトのスマホが超仕事している。きゃーと言いながら、スマホの待ち受けにしてる女子もいた。
「えへへ、いつも同じ髪型なので、変な感じです」
貸してもらった手鏡を見ながら、江藤さんが言う。
「尊い……」
ああ、真木さんがとろけるような表情で呟いている。同感。
「弓塚君、どうですか? 似合ってますか?」
ツインテールの両方をひっぱって、江藤さんが笑いかけてくる。僕は、親指を立てて頷いた。
「むっちゃ似合ってる」
「わーい、じゃあこの髪型にするやり方教えてー」
嬉しそうにツインテールを振りながら、江藤さんがこの髪型にしてくれた女子にお願いをしている。「いいよー」と言いながら、ツインテールが解かれ、いつもの髪型に戻っていく。
「慣れたらそんなに時間かからないからね」
「うん」
ちょっとおぼつかない手つきで、だんだんとツインテールになっていく江藤さんを眺めながら、僕は幸せな時間を堪能していくのであった。
それ以降、江藤さんは基本ストレートで、時々いろんなバリエーションを楽しむようになった。宮原さん達、グッジョブ。
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