文学少女ですエルフさん
「ふわぁ……本がいっぱい……」
いつもの放課後の読み書きの勉強の時間。今日は、ちょっと気分転換も兼ねて、学校の図書室に来ていた。
教室三部屋分くらいの広さに、人が二人通れるぐらいの間隔で沢山の本が詰まった本棚が並んでいる。
うっすらと本特有の匂いがしていて、静けさも相まって一種独特の雰囲気を醸し出していた。
江藤さんが本棚を右に左にキョロキョロしながら眺めているその姿は、控えめに言って世界の至宝スーパー可愛い。口絵で欲しい。お願いしたい。
「弓塚君、すごく沢山本があるね! ……私、初めて見たよ?」
僕に振り返って興奮したように大きな声で言って……図書室に入るときに見た『図書室では静かにしてください』という注意書きのポスターを思い出したのか、ちょこちょこと近づいてきて僕の耳元で、そんな事を囁いてきた。
くそう、なんで僕の耳はボイスレコーダーにダイレクトリンクしていないんだ!? 寝る時のBGMで、エンドレスリピートしたかった!
僕の制服の袖をつまみながら、江藤さんは「わー」と言いながら、本棚を眺めていく。二人でいる時、江藤さんは袖をつまんでいることが多い。無意識なんだろう、時々それに気づいてパッと離して恥ずかしそうにするのが、デンジャラス可愛い。僕が死ぬ。
「こんなに本があるなんて……文字を手書きするのも大変なのに……」
「ああ、これは手で書いた本じゃないんだよ」
「……?」
「印刷と言う特殊な方法が使える機械で、同じ内容の本を沢山作ることができるんだよ」
「ああ、まほ……んんっ! みたいなものなんですね」
ちゃんと『魔法』って言葉を使わずに済んだエルフちゃん偉い。いい子いい子したい。
というか、とてもじゃないけど現代人にする説明じゃないのに、それに疑問を覚えない江藤さんは、あいかわらず綱渡りな設定で生きているなあ。
「図書室の本は、借りて持って帰ることができるからね。勉強が終わったら、何か借りる本探そうか?」
「はい!」
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
カリカリと江藤さんのシャーペンの心地よいリズムが耳元で流れる中、僕は隣に座って適当に選んだ本を読んでいた。
図書室の本を選ぶのは誰がやっているんだろう。読んでいるのは、少し前に出版されたラノベで、異世界勇者なファンタジーだった。
エルフがヒロインだった。わかる。エルフが可愛かった。超わかる。エルフが巨乳だった。……現実と虚構の違いは理解しないとね? うん。フィクションは、夢があってもいい。いや、別に江藤さんがどうとかではなく。江藤さんのイメージは、華奢で可憐だから。華奢。慎ましい。白百合のイメージで、ひとつ。
「弓塚君、終わったよ」
「ごめんなさい」
「……?」
「あー、えー、ほら、ここ一か所、間違ってるよ」
「え、本当だ。えーと、えーと」
唇に人差し指を当てて考え込む江藤さんを横目にほっと溜息をひとつ。そして、読書を再開する。
しばらく経って「できたー」と江藤さんが、僕の肩をゆすってきた。今度は、ちゃんと正解してた。
勉強の後、約束通り、何か本を借りることにした。一緒になって、本棚のダンジョンを探索していく。
「どんな本にしようか」
「そうですね……色々あって迷っちゃいます」
「これ何かどう?」
ちょっと厚めのハードカバーな本を手に取って渡す。
「表紙をこっちに見せるように抱えて持ってみて?」
「こうですか?」
うん、眼鏡をかけて金髪を三つ編みにしたら、文学少女みたい。似合いそう。後で、真木さんと相談しよう。スマホの江藤さんフォルダが激熱になりそうだ。
「……持って帰るには、少し重いかなぁ」
悩んで本棚に戻した江藤さん。ああ、もう少し見ていたかった。
「文字だけじゃなくって、写真集もあるよ」
「写真ってあれですよね、凄く上手な人が描いた絵の事ですよね。あんなに一瞬で、描けるなんて不思議です」
「そうだね」
にこやかにスルーできる僕ってすごくね?
「ほら、ここの本棚は写真集のコーナーだよ」
「わあ、綺麗な風景とかいっぱいです! 動物もいっぱい……」
屈んで本棚の一番下の写真集を出してパラパラめくって戻しては次の写真集を取り出している。
「うううぅぅぅ、選ぶの難しすぎます……」
「退室時間まではまだあるから。ゆっくり選んだらいいんじゃない?」
「そうします」
じっくり吟味していく江藤さんが最終的に選んだのは、日本庭園の写真集だった。渋い。
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