キューティクルですエルフさん

 今日も今日とて、江藤さんが可愛い。


 この世に江藤さん予報が存在したならば、月曜日に陰鬱になりながら出勤していくサラリーマンは全て救われるに違いない。


 江藤さん予報、月曜日、可愛い。

 江藤さん予報、火曜日、可愛い。

 江藤さん予報、水曜日、可愛い。

 江藤さん予報、木曜日、可愛い。

 江藤さん予報、金曜日、可愛い。


 ちなみに、週末は江藤さんがお休みなので予報はない。

 ……週末が終末になりそうな気がするな。平日が救い。


「弓塚君、おはよう!」


 登校途中に、江藤さんが声をかけてきてくれる。天使か。いや、エルフだった。


「おはよう、今日も江藤さんは元気だね」


「えへへ、弓塚君も元気そうです」


 江藤さんの姿を見ただけで、風邪のウイルスを死滅させる自信があるかな?


「おはよう、エルちゃん」


「あ、真理愛ちゃん! おはよう!」


 珍しく真木さんが合流してきた。朝は、ぐずる妹たちに朝ご飯を食べさせるのに苦労しているらしく、なかなか登校中に会う事はない。


「おはよう、真木さん。妹さんたちは大丈夫だった?」


「おはよう。珍しく機嫌良かったから。残さず食べてたし大丈夫」


 もう発言が主婦だよね。

 モデル並みの容姿とスタイルの持ち主で、頭も良くて女子力高くて、たまにかける眼鏡姿なんか完璧すぎて、そして……ママみが深い。

 もしかして、真木さんはラノベの主人公なんじゃないかな。


「今日の特売情報は……」なんてスマホで周辺地域のスーパーの情報を流し読みチェックしている真木さんを見ながら「……真理愛ちゃん、恰好いい……」と江藤さんが尊敬のまなざしで見つめている。


 いや、株価の情報見ている雰囲気だけど、見ているのは卵パックの激安情報だからね。え? 今日の放課後ついてきて? 一人3パックまでの激安牛乳が販売される? 江藤さんと一緒に? イエスマム、お供します。


 〇●〇●〇●〇●〇●〇●


「エルちゃんの髪の毛って綺麗だよねー」


 と、羨ましそうな声を上げたのは、いつもの昼食時のメンバーである宮原加奈みやはらかなさんであった。


 先日、漫画を貸してあげてたらしく、江藤さんとの仲は良好である。


「そ、そ、そうですか?」


 ハート型のお弁当箱を可愛らしくつつきつつ、江藤さんが照れまくる。やばい。


 ちなみに、ハート型のお弁当箱を買ってきたのは、真木さんである。真顔で「似合うから」と渡していた。


「うん、サラサラしてて羨ましいな。いつも、どんな手入れしてるの?」


 陸上部で活躍している宮原さんは、ポニーテールが似合う女の子だ。いるだけで、その場が明るくなるような感じ。


「えーと、そんなに特別な事はしてないよ? お風呂に入る時に、まずは最初にお湯でしっかり流すでしょう?」


 ざわり、と教室の中が声もなくざわついた。


 江藤さんのお風呂……だと!? 宮原さん、なんて話題を提供してくるんだ! 貴女が神か!


(緊急ミッションだ弓塚! 先日、男子全員で金を出し合って購入したボイスレコーダーの出番だ!)(アイサー!)(宮原さんグッジョブだな)(本人、そういう意図してないみたいだけどな)(シャンプーとか言ってる江藤さんかわいい)(……お風呂では長耳なんだよな)(!)(!)(!)(それは……そうだろ?)(自分ちだしね)(お風呂というプライベート空間だしな)(……お風呂……江藤さんがお風呂……)(俺もうだめだ。湯あたりしそう)(気をしっかりと持て! ここは露天風呂を覗いている藪の中ではない! 教室の中だ!)(妄想がすごいな)(プロかよ)(こちら弓塚! 大変です!)(何事だ!)(どうした!)(……真木さんが僕を睨んでいます)(おおう……)(超こわい……)(怖い……)


 ボイスレコーダーは没収された。なぜだ。


 ちなみに、肝心の会話の中身は男子全員で盛り上がっていたせいで、あまり覚えていなかった。なんてこった。


「そっかー、ありがとうエルちゃん。今夜、同じ方法で洗ってみるね!」


 宮原さんと江藤さんの女子的会話が盛り上がる中、僕はモソモソと弁当箱の梅干しを口に含んだ。


 すっぱかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る