母性を感じるエルフさん
午後の授業も終わり、放課後となった。
江藤エルという、帰国子女の転校生がやってきて一日が終わったのだ。
ナニゴトモナク、オワッテヨカッタデスネー。
いや別に、昼食終わって油断したのか寝ぼけた江藤さんの魔法が解けてしまい、長耳がピクピク動いていたので、面白くなって眺めていたら、それに気づいた江藤さんが半泣きで金色の小枝を取り出して、机の影に隠れて(教室の机なもんだから全然隠れてない)何事か呟いて、ピカーッと光って、それをまともに直視した僕が「目がー! 目がー!」とのたうち回った事なんて、別にエピソードとして話すべき価値もない事である。
「まだ目がチカチカする……」
「と、突然眩しくなるなんて、ふっ、ふし不思議なこともあるんですね!」
「そうだね」
「ごめんなさい……」
「なんで江藤さんが謝るの?」
「え、え、そうですね! 私悪くない!」
怪しさ爆発してるエルフを眺めてほっこりしていると、真木さんが近寄ってきた。バッグを肩から下げているところを見ると、今日はもう帰るらしい。
「真木さんは、帰るの?」
「ええ、ちょっと帰り道のスーパーが特売セールするから」
「主婦力」
「好きでやってるからいいの」
真木さんは、江藤さんを見るとニコリと笑った。
「あのね、江藤さんに聞きたかったんだけど」
「うん、何ですか?」
微妙に敬語と普通語がまじりあう江藤さんは、聞いていてこう頭をナデナデしたくなってくるなあ。くっ、落ち着け僕の右腕。
「明日からの昼食って大丈夫? 用意できる?」
「あー……」
ちょっと考えて困ったようにうつむく江藤さん。
「私、料理できなくて……難しい、かも、です」
登校前に買ってくる、とか、学食で食べるとかの選択肢が出てこないのは、そういう知識が無いからであろう。
いかなる事情があるのかは不明であるけれど、作ってもらうなどの答えが出てこないということはもしかしてひとり暮らしなのだろうか。ちょっと心配。大丈夫? 一人で眠れる? 良かったら添い寝しようか? と、心に浮かんだだけなのに、周辺にいた女子からの視線が冷たい。解せぬ。エスパーか。
「もしかしたらと思ったんだけど、聞いて良かったわ。ねえ、もし良かったらアタシが明日からお弁当作ってくるから食べてくれないかな?」
「え?」
「毎日ついつい多く作っちゃうから、一人分のお弁当増やせたら、自分で消費する分が減ってすごく助かるの。良かったら、協力してくれない?」
「い、いいの? ですか?」
「うんうん、全然平気、ていうかむしろアタシの方が有り難いっていうか。あ、安心して、材料費は募金箱から使うから、料金も頂かないし」
「え、悪いです! ちゃんと払うよ!」
「いいの、いいの。その代わり、時々実験的に新しいレシピ試すから、その時は毒見をお願いね?」
そう言ってウインクひとつした真木さんは、すごく優しさにあふれていた。
「……ふわぁ……お母さまみたいです……」
江藤さんが胸元で手を握りしめて感動している。
「ママみが深い」「さすが、真木真理愛。通称、ママ」「もう、みんなのお母さんでいいんじゃないかな」「甘やかされたい」「いや、むしろ叱ってほしい」「わかる」「わかる」
「外野がうるさい!」
一見ツンツンな真木さんが吠えると、超こわい。
「あの……本当に迷惑でなければお願いしても……いいですか?」
真木さんよりも身長が低い江藤さんが、上目遣いでおずおずと尋ねる。その瞬間、真木さんはすごい勢いで首をひねって江藤さんに見えないように鼻を押さえた。
「無理……もう無理……」
わかる。
幸せが天元突破していた真木さんは、瞬時に態勢を整え、何事もなかったように江藤さんに頷いた。
「もちろん、明日からよろしくね。あ、エルフちゃんって呼んでいい?」
「私、エルフじゃないです!!」
あ、間違えちゃった、と謝る真木さん。後で聞いたら、本当に、素で間違えたらしい。
こうして、「エルちゃん」呼びが女子の間で少しづつ浸透する事になったのだった。僕も呼びたい。
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