第79話 夏休みの予定

 夏休み前最後のテストも終わり、自由の身になった。

 今回のテストは今までにないくらい勉強したので、数学以外の科目が平均点を上回る快挙を達成した。勉強して、成果が出るのはやはり嬉しいものだ。最近少し勉強の面白さみたいなものがわかってきたかもしれない。


 楓は今回も学年トップをとっており、次元が違った。そりゃあ、進学校からうちの高校に移ったらこうなるよなあ。しかも、怠けたりせず、毎日予習復習はしっかりしているようだし。アマチュアの中に一人勉強のプロが混じってるそんな感じだ。

 

 というわけで、残りは適度に勉強しつつ、夏休みが始まるのを待つだけとなった。


「悟は夏休み予定あるの?」

「俺に予定があるとでも?」

「ないねー」


 楓と付き合い始めて数日が経ったけれど、特に今までと変わったところはなかった。学校生活も私生活も。今みたいに一緒に下校するというのもずっとやってきていたし、クラスでもよく話していた。そういう光景をクラスメイトも今まで見てきているはずなので、微妙な変化を感じ取った人はいないはずだ。

 俺としては過ごしやすいので、とてもありがたい。付き合った、と嘘を吐き始めた頃は、視線が痛かった。なんであいつが、みたいな視線を四方八方から向けられていた気がする。俺が自意識過剰なだけではないと思う。


 今はもう堂々とできる。俺が隣にいるのが当たり前となり、そういう視線を向けられなくなったのもあるが、それ以上に自身を卑下し続けるのも、俺を選んでくれた楓に申し訳ないと感じるようになった。


「プール行こうよ、プール」

「別に構わないけど。二人で?」

「ちーちゃんたちも誘うつもりだったけど、悟的には二人きりの方が良かったかなぁ?」


 楓さんはちょっと腹立つ顔をしておられる。俺は子供ではないので、大人な対応をするけどね。


「やっぱりそういうのは大勢で行った方が楽しいもんだしな。明日にでも誘ってみようか」

「スルーしないでよ! そうだよね。悟は神崎くんのこと大好きだもんね。誘お誘お。四人で行こ!」

「神崎に嫉妬しないでくれよ......」

「嫉妬じゃないし! 私も四人の方がいいと思ってたし!」

「そうなんだ。四人の方がいいと思ってたんだ......」


 俺はわざと声のトーンを下げて言った。さっきのお返しだ。

 

「いや、四人もいいけど、それは二人きりが嫌ってわけじゃなくて、何ていうか、その......あー、わかんないっ!」


 何この子、反応が面白い。表情がコロコロ変わるから、見ていて楽しいんだろうな。

 からかうのはこの辺にしておこう。


「二人で行くのも、四人で行くのも、それぞれに別の楽しさがあるよね。今年の夏は四人でってことで」

「う、うん。最近の悟ってSだよね......」



「楽しそう!」

「でしょでしょ!」


 翌日、神崎たちに夏休み中にプールへ行かないか、と誘ってみた。二人とも大賛成のようで、四人で行く計画は実行されそうだ。


「いつ行くんだ?」

「みんなの予定が空いてる日だけど、いつがいいかな?」

「私はいつでも大丈夫だよー」

「私も大丈夫! 悟も大丈夫だよね?」

「うん」


 今のところある一日を除き、夏休みの予定は何も決まっていない。その一日とは、楓の誕生日。

 俺は大丈夫だけど、楓の方がすでに予定が埋まってたりしないかな。昨年は友達と過ごしていたし、ちょっと心配になってきた。誕生日を一緒に過ごせるものだと思っていたが、当たり前ではないのかもしれない。今日の帰りちゃんと言っとこう。


「じゃあ、夏休み初日に行くか?」

「神崎くんは好きな食べ物とか先に食べちゃうタイプなのかな?」

「楓ちゃん鋭い! 翔太はメインを先に食べて、野菜とか後で食べてる」

「やはりそっち派でしたか。悟は後に残しておくタイプだけどね!」


 別に隠すようなことでもないけれど、何か秘密を暴露されたみたいで、ちょっと恥ずかしい。


「お前たち話めっちゃ逸れてるぞ」


 神崎は頭をかきながら、言った。


「話は逸れてナンボでしょ」

「うんうん」


 神崎は「そ、そうか」とちょっと怯んでいた。大柄の男が後ずさってる姿はなかなか見れないので、貴重だ。


 その後もかなり話は脱線しつつも、何とか決まった。


「じゃあ、初日に行くことにするか」


 全員が賛成したので、夏休み初日に四人でプールへ行くことが決定した。人生で一番楽しい夏休みになる予感がした。



 帰り道、楓の誕生日のことについて訊くことにした。


「八月七日って空いてる?」

「空いてるよー。私の誕生日祝ってくれるの?」

「まあ、そんなところ」

「おー、去年は夜にちょこっと会っただけだもんね。今年は何くれるのかなぁ」

「あまり期待はしないでくれ。ガッカリさせたくないし」


 彼女の期待に沿えるかわからない。あまり期待させすぎて、予想を下回るもので落胆させたくない。


 俺の少し前を歩いていた楓は立ち止まり、振り返った。


「悟からのプレゼントなら、何でも嬉しいよっ」


 白い歯を見せて笑う彼女は、優しい笑みをしていた。俺が渡した物なら本当に何でも喜んでくれそうだ。それでも絶対に適当に選んだりせず、しっかり考えて渡したいな、と思う。夏休みに入ってからそのことで頭がいっぱいになりそうだ。

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