第63話 南楓と山下の話し合いの後

 気になる。

 今、楓たちはどんな話をしているんだ? ちゃんと言えたのかな? 誤解を解くことに成功したのか?


 ベッドの上で寝そべりながら、二人のことしか考えられなかった。誤解を生みそうな言い方だけど、実際そのことで頭がいっぱいで、何も手につかない状況だった。


 今日の学校で楓から放課後に話し合うことに決めたということを聞いた。俺はお邪魔虫なので、久しぶりに一人で帰ることにしたのだが、不安な気持ちでいっぱいだった。

 何せ、二年ほどちゃんとしたコミュニケーションを取っていないのだ。山下さんもちゃんと話を聞いてくれているのかな......。


 ああ、今から見に行こうかな。いやいや、そんな野暮なことはできない。二人の問題であることは俺もよくわかっている。

 でも、チラッと覗き見るくらいなら、ダメかな? 場所は校内では話しにくいということで、いつもの公園に来てもらうと言っていた。今から向かえば、間に合うかも......。


 葛藤中。


 やはり、ここは楓からの連絡を待とう。気になるけど。



 体感で数時間にも感じられた数分が経つと、着信音が鳴った。楓からだった。

 俺はすぐに電話に出た。


「もしもし」

『はやっ』


 彼女の第一声から、最悪の状況になっていないことはわかった。


「どうしたの? 話し合いは終わった?」

『うん! ココミが悟に会いたがってる』


 ココミ? 誰? 記憶を辿っても、ココミという名前に該当する人物の顔が思い浮かばなかった。


「なあ、コ......」

『待ってるからね! いつもの公園!』


 通話が切れる音がした。一方的に切られてしまった。

 電話越しでもテンションの高さが伝わってきた。俺は直接会わなくても、二人の仲が良好になったことがわかった。


 もしかして、ココミって山下さんの名前か?



 どうやら、山下心美というらしい。はじめて知った。今までずっと山下としか楓は呼ばなかったので、名前を聞くのは初めてだった。

 

 俺が公園に着いて、最初に目に入ってきたのは、昨日まででは考えられない光景だった。ベンチで仲睦まじそうに話す二人の姿がそこにはあった。

 山下さんも、楓って呼んでるし。仲は完全に回復したように見えた。


「ごめんなさい!」


 山下さんの第一声はこれだった。俺が知ってる彼女ではなかったし、声色も少し変わってない? これが本来の山下さんの姿なのか......?


「楓だけでなく、無関係な天野くんにも迷惑かけてたよね......」

「そんな迷惑ってほどでも」

「ううん。私がやってきたこと考えれば、こんなことで許してもらえるとは思ってないけど、本当にごめんなさい」


 山下さんは綺麗なお辞儀を披露した。 


 山下さんにされたことと言えば、少し困らされたくらいだ。大して俺に被害はなかった。二人の関係がバレかけた時は危なかったけど、それも俺たちに手抜かりがあったことを気づかせてくれたので、結果的には良かった。

 あ、一つだけ迷惑というほどでもないけれど、楓が山下さんの話題を出すたびに不機嫌になるのはどうしたものか、と思っていた。これからはそういう心配をしなくても良いんだなあ。


「大丈夫。別に俺は気にしてないから」

「優しいね。楓が惚れた理由もよくわかるよ」

「あったりまえじゃん。悟じゃなきゃ、好きになってないよ!」


 山下さんにバレないためであることはわかっていても、そんなに自信たっぷりに言われたら、恥ずかしくなる。今までに何度かこういう場面があったけれど、全然慣れない。


「やっぱり、原因はあのことだったの?」


 話を逸らしたい思いもあったので、訊いてみた。


「うん。最初は距離を取ってただけなんだけど、一度仲違いになっちゃったらどう接していいか、わからなくなって......そしたら、あんな態度とるようになってた......」


 地面を見つめながら、山下さんは言った。

 この件に関しては、誰か一人が悪いということはない。楓も山下さんも、当然宇都宮も。


「私も気づいてあげてたら......」

「ううん。私が楓にぼやかさずにちゃんと言ってれば、良かったんだよ......」


 二人の顔をよく見ると、少し目が赤かった。言い合った時、お互い言いたいことは言えたんだろうな、と思った。



 三人で少し話した後、日も暮れ始めていたので、解散することになった。


「それじゃあ、また学校で」


 そう言った山下さんの言葉に刺々しさは微塵も感じられなかった。


「じゃねー!」

「また学校で」


 公園を出る瞬間、山下さんが「あっ」と言い、俺と楓の方を見てきた。

 何かあったのか?


「そういえば、二人って付き合ってるんだよね?」

「え? そうだけど」


 急にどうしたんだろう。何か嫌な予感がするのは、俺だけだろうか。


「秘密はちゃんと隠さないといけないよ」


 秘密? 何のことだ......? 


「何のこと?」


 楓も俺と同じことを思っていたようだ。


「本当は、付き合ってないんでしょ」


 悪い予感って的中するものなんだよな。良い方は全く当たらないのに。

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