第27話 南楓と初雪

「雪だねえ」

「雪だなあ」


 初雪だ。白くて、冷たい雪。

 一年ぶりの雪にちょっとテンションが上がっている。俺たちはいつもの公園のベンチに座って、雪が地上に降るところをぼんやりと眺めている。降っている最中は、雪だなあ、という印象を受けるのに、一度地面や手に達すれば、ただの冷たい水だなあ、という感想に変わる。雪の定義はよく知らないが、地上に達するまでの白いものが雪だと、勝手に思っている。

 あ、でも、降り積もったのも雪だ。溶け切っていないのが、雪。そうしよう。


 降り積もる様子はなかった。雪もどんどん溶けていっている。隣に座る楓は「うわー」と何度も言い、テンションは高めであることがわかった。


「雪ってなんかいいよね!」

「わかる。なんかいい」

「一生見てられるう」


 その意見には同意できん。


「雪と言えば、悟、小学生の頃雪道で滑って、骨折してなかった?」

「そんなこともあったね」

「あの頃は雪ではしゃぐかわいい少年だったのに、どうしてこうなってしまったんだい?」

「今の俺を否定するのやめろ」

「落ち着きすぎなんだよー。もっとはしゃごうぜー。うわーって」


 彼女の方は逆に落ち着きがなさすぎる気もする。高校生にもなって、雪ではしゃぐ方が珍しいのではないだろうか。俺が普通である、と思いたい。


「他にも雪の思い出あった。悟が六年生までサンタさん信じてた話」

「待って。その話はいい。寒くなってきたし、帰ろう」


 俺は話を中断させるために、勢いよく立つ。


「えー、もうちょっと居ようよ。今から面白い話するから」

「全く面白くない!」


 六年生までサンタさんを信じていたため、楓に笑われたという話。あの頃はとってもピュアな少年だったから仕方ないね。うん。過去を改変する道具をサンタにお願いしたい。


「サンタさん信じてる悟かわいかったよ?」


 かわいかったよ? と言いながら、こっちを見てニコッとするのやめて欲しい。怒る場面なのに、ちょっと可愛い、と思って怒れないから。


「ほら、もう帰ろ。雪は充分楽しんだでしょ」


 精神的にも成長を遂げているので、落ち着いた口調で彼女に言う。


 彼女は小さな口を尖らせ、ベンチから動こうとしなかった。なので、置いていった。砂場を通り過ぎようとした時、「待ってー」という声とともに彼女が走ってきた。

 不機嫌になっていないか、表情を確認すると、口角が少し上がっており、どちらかと言えば機嫌が良さそうだった。


 これも雪のおかげなのかな。雪すげえ。

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