第26話 天野、勉強を教える

「おー、なるほど」

「できそう?」

「一回解いてみる」


 今、とあるファーストフード店で青葉ちゃんに勉強を教えているところだ。数日前に再会を果たしたばかりだったが、勉強を教えて欲しい、というメッセージが届いた。早速、頼ってくれたようだ。普段教えてもらう側だったので、教えられるか不安だったけど、やってみると意外となんとかなるものだ。一応、俺もうちの高校の試験をちゃんとクリアして入学しているんだ。中学生の知識を思い出しつつ、楓がいつもやってくれるように丁寧に教える。


「おおおおお。できたよ! できた! わかりやすかった」


 大興奮状態の青葉ちゃん。美少女に褒められて、頬が緩みそうになる。それを何とかこらえて、平常心を保ち、口を開く。


「良かった。俺より楓の方が教えるの上手いと思うんだけど、家だと全く教えてもらえないの?」

「うーん。全くってわけじゃないけど、ほとんど『後でー』って言われて、なかったことにされる」

「それがすごい意外だったんだよね。テスト前に友達数人でいつも楓に勉強教えてもらってるからさ」

「え? 本当? お姉が?」

「うん」

「贔屓だー。青葉が落ちたらお姉のせいだ......」


 それは違う気もするけど、家にいるなら教えてあげても良いのに、と思う。姉妹事情はよくわからないから、口出しできるものでもないけど。


「そうならないようにとことん付き合うよ」

「神! さんきゅーです!」


 三時間ほど勉強し、少し休憩。基礎も怪しく、これは大変そうだ、と思ったけど、集中力はかなりのもので、今まで勉強をしていなかっただけで、きちんとすればちゃんと伸びる気がした。高校だと基礎も怪しい俺が言っても説得力ないけど。中学生の頃はそこそこ成績良かったのに、どうしてここまで落ちぶれたのだろう。


 青葉ちゃんはポテトをつまんでいる。俺は二杯目のホットコーヒーをすする。


「コーヒー飲めるんだ。なんか大人って感じがする」

「そんなに美味しいと思って飲んでないけどね」

「なんでコーヒー二杯も飲んでるの? 大人ぶるため?」

「飲むのに時間がかかるから、かな。今日は長時間になると思ってたから、ちびちび飲める物が良かったんだよ。すぐに飲み終わったらドリンク代でかなりのお金がかかってくるからね。だからあっついコーヒー飲んでる。まずくはないし」


 いつもドリンクはその日の気分で決める。炭酸系を飲む時もあれば、お茶を頼む時もある。バラバラだ。でも、コーヒーを頼むことは稀だ。今回みたいに何かしらの飲む理由がないと、頼まない。家で飲む時も眠気覚ましのため、だし。


「青葉はまずいって思っちゃうから、まだまだ子どもなのかもしれませんなあ」

「飲めなくても、何の問題もないよ」


 少し雑談をし、勉強を再開した。青葉ちゃんが問題を解いている間、俺は来週の小テスト対策をしていた。古文と数学、両方の対策をするにはそこそこの時間がかかるので、良い暇つぶしとなった。数学に関しては、行き詰まった。どうアプローチすれば、角度を求められるのかさっぱり。手が止まっているところを見られたくないので、謎の計算を繰り返す。少々見栄を張ってる。ああ、楓に訊きたい。



「つかれたー」

「おつかれー」


 五時間ほど勉強した。ほとんど集中力を切らすことなく、勉強してくれた。この集中力俺にも分けて欲しい。


 カップなどをゴミ箱に捨て、俺たちは店を出た。


「気になってたんだけど、楓がうちの高校を受験した理由って知ってる?」

「知ってるよー。知りたい?」


 青葉ちゃんは上目遣いで、楽しそうに言う。こういうところ、楓に似てるなあ。やっぱり、姉妹だな。


「うん」

「なんかね。面白くなかったんだって。周りがみんな勉強ばっかで。ママとパパ説得する時に言ってたよ。『私は青春がしたい! 薔薇色の高校生活を送りたいんです! 青春を謳歌させてください! どうか、私の転校をお許しください』って。綺麗なお辞儀だったから、今でも覚えてる。成績の維持が条件だったけど、お姉賢いから余裕でキープしてるっぽいね」

「理由はそれだけ......?」

「うん。せっかく入った難関校を簡単に捨てれるお姉かっけえ、ってあの時は思ってたんだけど、受験が近づくにつれて、青春したいがためにわざわざ別の高校受験するなんて、バカなのかな? って思い始めた」


 最後に「青葉も人のこと言えないけど」と小声で付け加えた。


 いじめられていた、とかではないことに安堵する。でも、青春したくて、うちに来たのに俺と付き合っていることになってれば、そんな機会訪れることはなさそうだ。これで良いのかな。


「楓は青春を謳歌できてるのかな」

「どうだろうね。中学の頃より、毎日が楽しそうではあるよ」

「そうなんだ。なら、いっか」


 南家の前まで青葉ちゃんを送り届けた。帰り道に、「付き合っちゃいなよ〜」とからかわれたので、楓は俺たちの関係のことを言ってないことがわかった。学校外の人に知らせる必要はないけど、来年通うことになれば、自然と耳に入ってくるのではないか、と思った。


「今日は助かりました〜。ありがと!」

「何かあれば、遠慮なく言ってね」


 楓とよく似た笑みを浮かべ、中に入ろうと、手を扉にかけようとした時。


「あ、このことお姉には内緒ね。お姉がジェラシーを感じるかもしれないから」

「黙っとくよ」


 最後に謎ウインクをして、入っていった。ただいまー、が外まで丸聞こえだ。

 今日は姉に言わず、来ていたことを今知った。早速、先ほど覚えた英単語を使用してきたが、言い慣れていないのが丸わかりだった。どうして嫉妬されるのかよくわからないけれど、一応、黙っておこう。

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