第12話 四人で勉強会①
「おじゃましまーす」
「はーい」
楓によると、今は家に誰もいないらしい。
何年ぶりだろう。最後に彼女の家に上がったのは、小学校高学年。三年以上経っていると、記憶が曖昧だ。懐かしさを感じつつ、こんな感じだったっけー、と過去の記憶と照らし合わせながら、廊下を進む。
彼女の部屋に案内された。俺の記憶が正しければ、小学生の頃はこの部屋の隣だった気がするけど、移ったのだろうか。
「それじゃあ、ここで待ってて。麦茶しかないけど、いい?」
「うん。楓ちゃん手伝おうか?」
「いいよいいよ。一人で持てるから。お客様なんだし、ゆっくりしといて」
お世話になっているのは、俺たちの方なんだけどな。
楓は部屋の扉を閉めて、一階へ下りて行った。
「ねえ、翔太。さっきからそわそわしすぎじゃない?」
「落ち着かねえんだから、しょうがないだろ」
「あんた見た目と違って、女慣れしてないもんね。私以外の異性の部屋に入ったことある?」
「うっせえ。入ったことくらいある」
「へー、あるんだー」
須藤はからかって楽しんでるようだ。からかわれてる神崎も攻撃的な口調だが、そんなに嫌がってる様子ではなかった。
俺は何を見せられてるんだろうか。完全に俺の存在忘れられてるよね。早く、楓戻ってきて。俺が手伝いに行けば良かった。
「それにしても、楓ちゃんの部屋綺麗だねー。天野くん、さっきからかなり落ち着いてるみたいだけど、何回も来てるの?」
正直、久しぶりの楓の家に緊張して、固まっているだけ。神崎と状況は大して変わらないだろう。
何と答えるべきだろう。さすがにこの質問に対する答えは考えていなかった。何回も来てると言えば、来てる。でも、それは小学生の頃の話であって、ここ数年楓の家に来たことはなかった。この部屋もはじめてだ。
神崎が「千草の部屋と大違いだなあ」とさっきの仕返しとばかりにつぶやいたせいで、睨みつけられている。このまま話が逸れろ!
「で、どうなの?」
ダメかー。神崎を睨んだ後だからか、目つきが鋭くなっている。俺にそんな恐ろしい目を向けないで……。
「小学生の頃は何回か来たことがあったけど、付き合うようになってからは今日がはじめて」
「え、二人は幼馴染なの!?」
「俺も初耳だぞ」
なんか話が逸れたぞ。ラッキー。
神崎に直接言ったことはないが、クラスメイトから質問攻めにあった時、彼らに幼馴染であることは伝えていたので、耳に入っているものだと思っていた。
「お待たせー」
楓が四人分のコップをお盆に載せて、持ってきてくれた。
みんな彼女にお礼を言いつつ、コップをそれぞれ取った。
「何の話してたの?」
「楓ちゃんと天野くんの話! 楓ちゃんと天野くんって幼馴染だったの!?」
「そ、そうだけど」
須藤の勢いに楓が少し後ずさっていた。幼馴染にそんなに反応するもんかね。
「憧れちゃうな〜。幼馴染の二人が高校生になって、くっつくとか。ねえ、翔太」
「え、ああ。確かに漫画みたいだな」
確かに幼馴染の二人がくっつくというのは、ベタな展開かもしれない。
「ねえねえ、どっちから告白したの?」
須藤はここに来た本来の目的を忘れてしまったようだ。神崎もこのことに関しては興味があるのか、楓の方を見る。
「え、告白したのは……」
「うんうん」
須藤が大げさに頷いている。
「──勉強頑張ったら教えてあげるねっ」
楓は小首を傾げ、微笑んだ。
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