第3話 番犬と子猫とわし

 昔、実家の庭でうとった犬は、雷を怖がりよった。

 ひどい雷の日ぃにな、玄関の中に入れたってん。冬やった。


 ちょっとして玄関見たら、おらへん。

 まさか勝手に家に上がりよったんかて探したけど、おらへん。

 玄関戻ってきたら、おってん。


 おかしいな思て。


 またちょっとして玄関見たら、おらへん。

 今度こそ見っけたるて奥行ったら、脱衣所のバスマットの上で震えとった。

 外で飼うとる犬や、親がアカン言うさけ部屋には上げられへん。かわいそうやけんど、叱って玄関連れてってん。


 そっからちょっとして玄関見たら、またおらへん。

 またかいなて脱衣所見たけど、今度はおらへん。


 おかしいな思て。


 玄関戻ってん。

 ほんなら、すぐ横の客間のふすまが開いとった。三分の一。


 そう言うたら、最初んときふすま開いとった。

 バスマットんときは、その前にわしが閉めとった。

 ほんで、今、誰が開けたんか、ふすま開いとる。


 わし、なんやもう笑けてきて。


 客間入ったら案の定、犬いて。

 それも、こたつの布団に潜っとって。

 怒らんなんのに、こらえきれんと笑てしもた。


 上目遣いで見上げよるさけ。

 かわいいてな。


 あれ、よっぽど怖かったんやろ。

 寒かったんもあんねやろけど。






 ふみは、雷まったく怖がらへん。

 その辺落ちたんちゃうかぐらいの音なっても、何の反応もせえへん。


 何でや。


 まだ子供やからか?

 人間でも子供はものを知らんさけ、怖さも知らんしな。


 いや、しゃあけど、でっかい音を怖い思うんは、理屈の問題か?


 ちゃうよな。

 本能の問題やろ。

 しかも、猫やで。人間よりよっぽど耳いいはずやねん。人間どころやない、犬よりいいらしいやないか。


 何ですまして座っとんねや。




「はよやめや、雷」


 わしの方が、びびっとるやないかい。

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