皇女の覚悟


 皆さんが来たので紹介した後、小雪さんに、説明してもらうことにしました。

「小雪さん、パスポート登録の手順だけお願いします。それ以外は、アナスタシア皇女の覚悟を、聞いてからにしたいと思いますので」と耳打ちしました。


 小雪さんが説明を始めましたので、私は退室しました。


 しばらくアポロさんとミハエルさんとで、アナスタシア皇女の扱いについて話した後、雑談に移っているとミハエルさんが、

「この前、魔女さんのことを、小雪さんから聞いたときは驚いた」


「どこに耳があるか分からんので、とりあえずわしらは、ヴィーナスさんと呼んでいいかの?」

「私は構いませんよ、でもイシュタルの名も公にしたので、この扱いをどうしましょう」


 アポロさんが、

「公の文書にはイシュタルで、私的にはヴィーナスで良いかと思います。ヴィーナスの名で呼べるのは、親しい関係と、決めておかれれば良いでしょう」


「個人的にはイシュタルとは、あまり呼ばれたくないのですよ、戦いの女神の名ですから」

「アポロさん、私は貴方を信用していますが、少し賢すぎます。イシュタルの名で、良からぬことは考えないでくださいね」


 アポロさんは苦笑いをしながら、

「わかりました、イシュタル様は何事もお見通しのようです。これからは、このアポロを信頼してください、裏切るようなことはいたしません」


「アポロさん、貴方は多分この世界で一番の賢者、これは世辞ではありません。女の私としては、治世はどちらかというと苦手、これからも私の片腕として、助けてください」


 アポロさんが、

「ミハエルさんを証人とするところなど、かないませんな」

 アポロさんはここで、初めて心底笑いました。


「ところでニコルさんとは、いつご結婚で?」

 これには沈着冷静なアポロさんも慌てています。


「女の感は鋭いですよ」

「……ジャバ王国が落ち着く頃には……」

「そうですか、それまでには私がいただきましょうか」


 !


 アポロさんを揶揄うのは、面白いですね。


 小雪さんが呼びに来ました。

「アナスタシア皇女の覚悟を聞きに行きましょう」


 ミハエルさんが「体力」と云います。

 やはり一回、この爺さんは殺さなければいけません。


 アナスタシア皇女が、真っ赤な顔をして私を見ます。

「もし、イシュタル様が、その場に立ち会っていただければ……」

「他の側室の方には、ご遠慮していただければ……」

 しどろもどろで答えてくれました。


「よろしいのですか、色々な意味でもう戻れませんよ」

「はい、短い間でしょうが、よろしく可愛がってください」


「覚悟はわかりました、ではこれからのことは、私が説明いたしましょう」


「私はイシュタルともヴィーナスとも名乗っていますが、もう一つ、この世界での呼び名があります、黒の巫女とも呼ばれているのです」


 アナスタシアさんは唖然としました。


「貴女は私の愛人兼従者として、私と時を共にすることになります」

「これから貴女を登録することになりますが、それが終われば、貴女は鍵の所持者となり、健康になります」


「所持者は私の護衛として、旅の供もします、私はこの世界の者ではありません。使命を持ってこの世界に呼ばれました、そのことは、この世界の神話が証明するでしょう」


「私から、このようなことを言うのは心苦しいのですが、所持者になった時点で、完全に私の物になります、いいですね」


 アナスタシアさんは頷きました。

「皆様とともに、黒の巫女様の所有される者として、末永くお仕えいたします」


 さて、パスポート登録です。

 アポロさん達にしばらく戻らないので、後はよろしくと、お願いしときました。


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