第十二章 売りに出された女
アナスタシア皇女
アナスタシア皇女が私に両膝をつき、手を前に差し出して誓っています。
「私、アナスタシアは、イシュタル女王の想い人として、この身を捧げ、この心を捧げ、お側に侍ることを誓います」
「イシュタル女王様の、ご命令にのみ従い、イシュタル女王様だけを愛します」
ここはキリーの町、アナスタシア皇女は驚くことに、一人でやってきました。
年は二十歳だそうで、何とも気品のある女性ですが、やつれています。
やはり病気とのこと、旅がこたえたのでしょう。
私は急遽作られた謁見の間で、アナスタシア皇女を見下ろしています。
ジャバ王国の首脳二人と、このキリーの町の代表と、私の愛人が居並ぶ中で……
「私がイシュタル、貴女の主です、このキリーの施政権は貴女にゆだねます」
「代表の皆さま、このキリーは、アナスタシア皇女のおかげで、自治を勝ち取りました」
「本日をもって、ジャバ王国がアムリア帝国より預かり、防衛はジャバ王国が持つことになります」
「アナスタシア皇女、長旅ご苦労でした、少しお休みください」
「マリーさん、アナスタシア皇女のお世話を頼みます」
「皆さん、本日はご苦労様でした」
儀式が終わり、私はアナスタシア皇女を見舞いに行きました。
「お加減はいかがですか?」
「ありがとうございます、私のような捨てられた女に、救いの手を差し伸べていただき、感謝の気持ちで一杯です」
「しかし、私は長く生きられません。短い間でしょうが、精いっぱいお仕えいたします」
「愛人として、永く尽くせないことをお詫びいたします」
小雪さんが云っていましたが、言葉通りの優しい皇女様です。
「アナスタシア皇女は、私をどのように見ましたか?」
「アナスタシアとお呼びください、私はイシュタル様が、とてつもなく怖い人と思っていました」
「死の女王、ジャバ王国をその手で掴み取り、前国王を処刑した女王」
「多くの愛人を持ち、お気に召さなくなった愛人を処刑される女王、そのような噂が、アムリア帝国では広がっています」
「私は長くない命、父の願いを聞き、国のために、イシュタル様の愛人になる決意でやってきました」
「こうしてお話をさせていただくと、とても優しい方、またお姿に接すると、この世のものとは思えぬほどのお美しい方、そう思いました」
「過分な褒め言葉ですね、その噂はほぼ本当です。私は正直、多くの愛人を持っています、貴女が嫌なら無理にはいたしません、側で寝るだけにいたしますが」
「私はイシュタル様に、愛していただくためにここへ来たのです、私はイシュタル様のような方に愛されるならば、幸せと思っています」
「私のために、何でもできますか?」
「私のできることで良ければ致します、しかしどんなことがあっても、身を穢すことは、イシュタル様のご命令でも無理です。貞節を尽くす、私の存在価値はそれしかありません」
「罪なことを聞きますが、アムリア帝国とジャバ王国が、もし戦火を交えるとき、貴女はどうされます?」
「確かに大事なことです。私はイシュタル様に嫁いだ身、もしそのようなことが起きれば、当然父でも矢を射かける所存です」
「イシュタル様、私は覚悟してここへ来ました、その覚悟をお疑がいですか?」
「実は私の愛人になるためには、大変恥ずかしい儀式があります」
「殿方に見られるとか、貞操の危機とかいうのではありませんが、経験した者が云うには、口に出すのは恥ずかしいと云うのです」
「しかしアナスタシア皇女には、それを受けていただきたいのです。いま愛人達を引き合わせますので、皆に聞いてください」
「分かりました、お話を伺います」
「マリーさん、皆を連れて来てくださいませんか」
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