切れ者


 皆、驚いた顔をしました。


 するとアポロ執政が、

「イシュタル様のご希望は聞き及んでいますが、できましたら、前にも言いました通り、長く女王の地位に留まって頂きたい」


「トール隊長やニコルの前で、イシュタル様の秘密を言うのは心苦しいのですが、イシュタル様はこの世界の救世主と推察しております」

「この世界の本当のお名は、ここでは言えませんが、その責任を思うと、留まれとはいえません、が、それでもです」


「わが国を見捨てないで欲しい、この国は未来永劫、イシュタル様の名の下にまとまるのです」

「国民もそれを望んでいます、やっと塩で、財政の基礎が固まりつつあるところです、これからなのです」


「ジャバの君主は、イシュタル女王以外ありえない」

「イシュタル様が、その責任を果たそうとするとき、私もトールも、そしてこの国も、イシュタル様の名の下に、はせ参じるのを名誉と考えます、退位は認めない」


「ではアポロ執政は、薄々私を知っているなら、どうすればよいとお考えですか?」

 退位認められないというなら、策があるのでしょうね、アポロさん。


「イシュタル様は、気まぐれで、よくあちこちご散策されて、お側の者は迷惑している、ということで如何ですか?」


「ここからは秘中の秘、トールもニコルも漏らしたら命をもらうぞ」

 アポロさんは続けます。


「そちらのアテネさんは大丈夫ですか?」

 アテネさんが頷き、刀をカチッと鳴らしました、金打きんちょう――固い誓いの証として、金属を打ち合わせる、男は刀、女は鏡――ですね……エラムでもするのですね。


「イシュタル様は、黒の巫女様と推察しております」

 私は頷きました。


「いつかは教団に、近づくことになります、しかし教団は内部が腐りきっています」

「黒の巫女様といえども、おいそれと、認めないかもしれません」


「その時、黒の巫女様の立ち位置を、確保しておく必要があります。ジャバ王国のイシュタル女王という立ち位置は必要でしょう」


「私は失礼ながら、イシュタル様が黒の巫女と確信した時点で、大陸全土の不思議な情報をかき集めました」


「するとガルダ村と山賊街道の、死の女王の噂が耳に入りました」

「その情報を辿ると、王位継承トーナメント記念舞踏会で、至高王を袖にした、麗しの女性の噂が耳に入ります」


「さらにその会場には、ダフネという、元神聖教大賢者がいたと聞き及んでいます」

「このダフネという大賢者は、その前にジャイアールに現れ、赤毛の女剣士と黒髪の侍女を従えていたと、情報が入ってきました」


「これを総合して考えますと、イシュタル様は主要な三カ国を全て回られたはず、このジャバ王国が最後と思われます」

「後は大陸南部の辺境諸国と、人跡未踏の北方列島ですが、北方列島は視察の可能性は低く、辺境諸国は回られるとしても、そんなにかからない」


「すると、そろそろイシュタル様は、行動を起こされるのではと考えられます、ここまでは当たっていますか?」


 私は頷き、

「わかりました、本当に貴方は賢い方ですね、しかしその情報網を、私のために使ってくれるのですか?」

「ジャバ王国の覇権のためではありませんね?」


 アポロ執政は、

「ジャバ王国の力では、それは無理でしょう、この国が繁栄するためには、世界が平和である必要があります」

「貿易で国を成り立たせる以上、国々のバランスこそが大事でしょう」


 私はダフネさんに、ここへ来てもらいました。

「ダフネさん、この方と、私たちの今後について話し合ってくれませんか、私の目的は、貴女なら知っているはずです」


「アポロさん、元神聖教大賢者のダフネさんを紹介しましょう」


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