白いななし


 この国で、私が即位してから約二ヶ月、国家は順調に経過しています。

 アポロ執政は辣腕をふるい、取りあえず治安も安定、そろそろリリータウンへ戻ろうと思い始めています。


 小雪さんも戻りましたし、ビクトリアさんもキリーの町などで遊んでいます、代わりにサリーさんが頻繁に来ますね。

 ただ元神聖教大賢者であるダフネさんは、この王宮を歩くと障りがあるので、来ないようにお願いしました。

 大変ご立腹で、良くキリーの町で責められます。


 ある日、また町へ視察に出ました、当然トールさんがついてきます。

 町が活気付いてきたのを見ていますと、突然トールさんが剣を引き抜きました。


 だれかが、殺されそうになっています、このような場所で……

 私は「待ってください、どうしたのですか!」といいますと、殺そうとした男は、私に怒鳴りそうになったのですが、トールさんに気が付きました。


「奴隷を処分するところだ!」

 みると15歳ぐらいでしょうか、女?の子のようです。

 真っ白い髪で大きな目が印象的です、見れば腹部に大怪我をしています、ほっとけば助からないでしょう。


「剣奴です」、トールさんが小さく耳打ちします。

 男が、

「戦争捕虜を買ったのさ、かなり儲けさせてもらったが、今日の試合でこのざまさ」


 私は奴隷といわれた人をまじまじとみました。

 感情のない表情が、この人の過去を明瞭に語っています。


「私に譲ってください」

 トールさんが慌てていますが構いません。


 このとき初めてこの奴隷という人が口を開きました。

「このまま死なしてください、やっと死ねるのです」

 私はこの言葉を取りあえず黙殺して、

「死にそうな奴隷でしょう、これでいいですね!」

と、代価を支払いました、勿論、権利書とともに。


 私は奴隷さんへ向って、

「貴方、人はどんなときでも、生きなければなりません、人生の禍福は分からないもの、その若さで寝言は百年早いわ!」

「助けてあげます、生きる目的がないなら、私に従いなさい、私のために生きなさい!」


「女神様……」

 この人の目に、涙が滲んでいました。


「トールさん、ご足労ですが、この人を私の部屋へ運んでください」

「いけません!」とトールさんが云いますが、

「イシュタルとしての命令です、従ってください」


 取りあえず、私の部屋で応急処置をしましたが、助けるためには、身体を再構成しなければならない状態です。


 私は「貴方の名前は」と聞くと『ななし』と答えました。

「名前はつけてもらえなかったのです」


「ななしさん、聞いてください、貴方を助けるためには、私に永遠の忠誠を、誓ってもらわなければならない状態です」

「見れば貴方は元男の状態、助けたら貴方は女性になってしまいますが構いませんね、それでも良いですか?」


 ななしさんは苦しい息の下、

「私は口には出せない日々を送ってきました、いまさらどんなことになっても驚きません」

「ご主人様が望まれるようにしてください。永遠の忠誠を誓います」


「ななしさん、立てますか?」

 ななしさんは気力を振り絞って立ちました。


 だれか手伝って……

 私はドアを開けて前室へ導きます。

 ダフネさんが立っていました。


「ダフネさん、手伝って」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る